大相撲夏場所後に、新横綱大の里(25=二所ノ関)が誕生した。師匠とともに紋付きはかま姿で伝達の使者を迎え、厳かに口上を述べる儀式は大相撲の一大イベントだ。元大関琴奨菊の秀ノ山親方(41=本紙評論家)による連載「がぶりトーク」では、新横綱や新大関が行う伝達式の裏側を解説。大の里の伝達式で使者を務めた感想から、現役時代の経験談、昇進した力士に待ち受ける意外な〝試練〟などについて紹介する。
【秀ノ山親方・がぶりトーク】読者のみなさん、こんにちは! 5月の夏場所後、大の里が横綱昇進を果たしました。伝達式の様子をニュースなどでご覧になった方も多いかと思います。今回、私は大の里と同じ二所ノ関一門の審判の立場で、初めて使者を務めさせていただきました。あの独特の雰囲気の中で新横綱が誕生する瞬間に立ち会えたことは、とても貴重な経験になりましたね。
自分の現役時代を振り返ると、伝達式でまず思い浮かぶのが、同部屋の琴光喜関や琴欧洲の大関昇進です。新大関が伝達式を終えて、部屋の力士たちが組む騎馬に乗る姿を見て、特別な地位なんだなと。自分には縁がないものだと思っていました。その後、自分が2011年の秋場所後に周りから「大関昇進確実」と言われた時も、まだ信じられなかった。
大関になった実感が初めて湧いたのは、伝達式当日になってからのことです。師匠の佐渡ヶ嶽親方(元関脇琴ノ若)と一緒に使者を迎えた時には「これで一つ恩返しができた」と感慨深いものがありました。私が述べた口上は「万理一空」。全ての理(ことわり)は一つの空につながる。目標に向かって努力を続ける決意を込めました。
私が生まれた菊次家では、相撲を教えてくれた祖父をはじめ、父、自分を含めた3兄弟全員の名前に「一」の字が入っているんですね。だから、この1文字は入れたかった。当時は宮本武蔵に関する本を読んでいて、その武蔵に由来する言葉でもある。いくつかの候補がある中で「自分は、これだな」と直感して決めました。
伝達式が無事に終わると、いっぺんに周りの景色が変わった。それまで部屋の力士や記者の方たちに「菊関」「関取」と呼ばれていたのが、その瞬間から「大関」と呼ばれるようになる。うれしさや気恥ずかしさがある半面、地位の重みと責任感で身が引き締まる思いでした。
これは余談ですが、伝達式後には乾杯と記念撮影があって、昇進した力士はお祝いの大きなタイを持ち上げるのが恒例。これが、むちゃくちゃ重い(笑い)。尾がつかみにくい上に、座ったまま腕を伸ばして高く持ち上げる。鉄アレイを持つのとは勝手が違います。カメラマンの方から「もっと高く!」「こちらを向いて!」とリクエストに応えるうちに、腕がパンパンになります。
改めて思うのは、伝達式を通じて、看板力士としての自覚が芽生えること。口上の一つにも、その力士の信念や生きざまが表れる。今回の大の里は、大関昇進の時と同じ「唯一無二」でした。その言葉の通り、横綱として自分にしかできない相撲を追求していってもらいたいと思います。
大相撲にとっても、東西に2人の横綱がそろったことは明るい材料です。次の名古屋場所(7月13日初日、愛知・IGアリーナ)での活躍に期待したいですね。それではまた!














