先輩大関も感無量だ。日本相撲協会は1月31日、関脇琴ノ若(26=佐渡ヶ嶽)の大関昇進を正式に決定。新大関は3月の春場所は「琴ノ若」のしこ名で臨み、5月の夏場所から元横綱だった祖父の「琴桜」を襲名する意向を明かした。兄弟子で元大関琴奨菊の秀ノ山親方(40=本紙評論家)による連載「がぶりトーク」では、琴ノ若との〝秘話〟を公開。1月の初場所で果たせなかった初優勝や、その先にある横綱への期待についても熱く語った。

【秀ノ山親方・がぶりトーク】読者のみなさん、こんにちは! 琴ノ若の大関昇進が正式に決まり、本当にうれしく思います。小さいころから相撲が大好きな子で、いつも稽古場の上がり座敷で先代師匠(元横綱琴桜)の横にちょこんと座って稽古を見守っていた。外へ出掛ける時には、よく雪駄を履いて力士になりきっていましたね。あの少年が、大相撲を背負っていく立場になった。とても感慨深いものがあります。

 おじいさんが横綱で、お父さんが関脇。重圧がある中で、よく辛抱してここまできたと思う。幕下時代は、引きずり回しながら厳しく稽古をつけました。私から注意をしたこともある。十両に上がる直前の場所(2019年夏場所)で、琴ノ若がどこかを痛めて稽古を休んだことがあったんですね。本人には、こう言いました。

「それでは、ダメだよ。先代の教えは『ケガは稽古で治せ!』。稽古場には下りてきて、やるべきことをやるんだよ。しっかり体づくりをしなければいけない」。その場所で琴ノ若は最後の相撲で勝ち越して、新十両を決めた。誰でも弱気になって手を抜いたり、休みたいと思う時もある。そこでごまかそうとすると、強くはなれない。そういう時こそ、相撲と向き合うんだよと伝えたかった。

 琴ノ若の強みを一つ挙げると、体の柔らかさや身体能力の高さは天性のものがある。コロナ禍の間、部屋の力士たちと一緒にトレーニングをしていた時期があったんですよ。片足で自分の体重を支えて、もう片足は後ろに浮かせて全身のバランスを取るとか。みんなができない中で、琴ノ若だけはスッとできてしまう。力は琴勝峰が一番強いけど、体の使い方は琴ノ若がずば抜けてうまい。

 それから、私が現役を辞める1年ほど前だったかな、琴ノ若と稽古で相撲を取ったんですね。やってみた感覚が、すごく白鵬関に似ていて。当たっても、当たった感じがしない。自分の力が吸収されてしまうような感覚。その時は3、4番稽古したんですけど、勝てないから次からはぶつかり稽古だけ胸を出すようになりました(笑い)。

 初場所で大関昇進を果たしたけれど、初優勝は達成できなかった。本人も相当、悔しそうな表情をしてましたよね。部屋の千秋楽パーティーで顔を合わせた時には「先代は何回も挑戦して乗り越えてるよ。今日のことが力になるから、頑張るんだよ」と声をかけて「お客さん全員のところを回って、お礼を言ってこいよ」と背中を押しました。

 勝った時は自然と周りに人が集まってくる。負けた時に自分から頭を下げて「期待に応えられず、すいませんでした。次は頑張ります」と言えるのがプロだと思うので。私も千秋楽の相撲は審判として土俵下から見守っていました。照ノ富士との決定戦では、肌に突き刺さるような大きな声援があった。勝ち負けも大事だけど、より多くの方々に応援される力士になってもらいたいですね。

 私が大関になった時にも、部屋の大先輩の尾車親方(元大関琴風)から「先代のお墓の前で横綱土俵入りをしてほしい」とずっと言われていました。そのかなえられなかった夢を、琴ノ若には実現してほしい。これからの挑戦を先代も見守っているはずです。みんなから「かっちゃん(※)」と呼ばれていた相撲少年が、大関琴ノ若になった。やがては強くて厳しい琴桜になれるように、ぜひ頑張ってもらいたいですね。それではまた!

※本名の将且(まさかつ)から