3連覇を目指す藤井聡太八冠(21)に菅井竜也八段(31)が挑戦する第73期ALSOK杯王将戦(スポーツニッポン新聞社、毎日新聞社主催)7番勝負の第1局が7日に始まった。
振り駒で先手番となった菅井八段は、対戦する藤井八冠への初手7六歩から三間飛車に進める展開。相穴熊となり、午後6時過ぎに菅井八段が53手目を封じて1日目の戦いを終えた。
この対局は「居飛車vs振り飛車の〝頂上対決〟になる」として将棋ファンに注目されているが、一体どういう意味なのか? できるだけわかりやすく説明してみよう。
縦横にいくらでも動ける飛車は将棋において攻めの要。序盤にどの位置に構えるかで盤面に大きな影響を及ぼす。デフォルトの位置のままなら「居飛車」で、左側に寄せる(=動かす)戦型が「振り飛車」だ。現代では80%以上のプロ棋士が「居飛車」を得意とする「居飛車党」である。
過去には「振り飛車」が隆盛を極めた時代もあった。しかし、飛車を振った瞬間にAI評価値が下がるという事実が確認されたことで、「居飛車」こそ王道、「振り飛車」はロマンという位置づけになってしまった。
それでもなお「振り飛車」にこだわる棋士が菅井竜也八段で、自他ともに認める「振り飛車党」の党首だ。菅井八段はほぼすべての対局でAI評価値が序盤で劣勢になることを承知の上で「振り飛車」を選択。中終盤で盛り返し、勝ち星をもぎ取ってきた。そしてついに、「居飛車」で栄華を誇る藤井八冠への挑戦権を手に入れた。
だから王道vsロマンがぶつかる一戦と見なすのはひとつの正解と言える。
だが、「なぜ菅井八段は振り飛車にこだわるのか?」と問いを進めると、将棋に対する向き合い方の違いも見え隠れし始める。
藤井八冠にとって将棋は答え(真理)を追求するゲームであるのに対して、菅井八段は将棋を人間同士の思想・構想をぶつけあうゲームだと捉えているのではないか。
AIが経済性や効率性で〝答え〟を突き付けてきたとしても、人間はそう簡単に嗜好やこだわり、思想を投げ捨てることはできない。菅井八段は「振り飛車」という思想、生きざまをどこまで堅持できるのかという難問とも向き合っている。
もちろん、私たちの日常にもコスパやタイパの波が押し寄せているわけで、人類が将来どこまで思想を持ち続けられるか定かではない。
まさに菅井八段が見せてくれる「君たちはどう生きるか」――。エンターテイメントでありながら、他人事とは思えない勝負が始まっている。













