1996年2月14日、25歳で将棋の七大タイトルを全制覇し(叡王含む八大タイトルになったのは2017年以降)、現在は日本将棋連盟会長を務める昭和生まれの羽生善治九段。

 2023年10月11日、21歳で八大タイトルを全制覇した平成生まれの藤井聡太八冠。

 異なる時代に生まれた2人の天才に共通点はあるのか? 間もなく藤井八冠が竜王戦7番勝負第4局(10、11日)を迎える今、両者の歴史的偉業を間近で見てきた男に話を聞いてみた。将棋と麻雀、史上初の二刀流プロとして「Mリーグ」でも活躍中の鈴木大介九段(49)だ。発売したばかりの自伝「将棋と麻雀。頭脳戦の二刀流 49歳からの私の挑戦」でも触れているが、羽生九段と藤井八冠には共通点が3つあるという。

実力派棋士にしてプロ雀士でもある鈴木大介氏
実力派棋士にしてプロ雀士でもある鈴木大介氏

 まず1つ目は「2人とも中学生プロ棋士としてデビューしていること」。

 羽生九段は1985年、中学3年生15歳2か月でプロ入り。藤井八冠は2016年、中学2年生14歳10か月でプロデビューしている。「日本将棋連盟は来年9月に創立100周年を迎えます。その1世紀の歴史を振り返っても、中学生プロ棋士は5人しかいません」。

 5人とは、加藤一二三九段(83)、谷川浩司九段(61)、羽生九段(53)、渡辺明九段(39)、そして藤井八冠(21)。名だたる棋士が名を連ねる。「5人とも10代で頭角を現しています。棋士には誰しもピークがあるので、若さは最大の武器とも言えるのです」。

 2つ目は「2人とも〝一流の鈍感力〟を持っていること」だという。いったいどういうことのなのか。「羽生九段も藤井八冠も〝王道の手〟を、ただひたすら太く読んでいきます。王道を外れるような細かい手はあまり読まない、というか気にしません。もしくは2人には、王道以外の手は目に入ってこないのかもしれない。実はそのすぐれた鈍感力こそが、類い稀な才能なのです」

 例えば多くの棋士に10通りの手筋が見えている局面があったとした場合。「羽生九段と藤井八冠には5通りの手しか見えていない。でもそれは間違いなく王道の手。しかも藤井八冠と羽生九段の6通り目は、私のような凡人に見えている10通り以外の手を読んでくる。要するにその局面を見た瞬間に本質を見極めているのです」

 対局には持ち時間があるため、読む手の量は変わらなくても、どこを読むのか。王道以外の手には目もくれないことで、王道の手をより深く読んでいくことができるというのだ。

「天才は考え方がいたってシンプルです。羽生九段は対人勝負の天才。藤井八冠はAI(人工知能)とシンクロできる天才。凡人は王道以外のことも考え、悩みがちなので、逆に天才よりもさまざまな勝負勘が必要となってしまうものです」

10月、竜王戦に勝利した藤井八冠
10月、竜王戦に勝利した藤井八冠

 3つ目は「一瞬の輝きを放つほど、集中できること」。

 鈴木九段は中学1年生だった奨励会時代、高校2年生だった羽生九段(当時五段)の対局を見ていて野性的なオーラを感じたことがあったそうだ。「羽生九段がタイトルを取る前の17歳の頃なんですが、七冠を達成した頃の羽生九段自身に負けないほどの集中力で、一心不乱に指しているその様は輝いて見えました」。

羽生善治九段は96年に七冠を達成
羽生善治九段は96年に七冠を達成

 藤井八冠に一瞬の輝きを感じたのは、2023年7月に行われた第64期王位戦7番勝負の第1局。挑戦者の佐々木大地七段が投了した瞬間だったという。「盤上に集中していた藤井八冠は一瞬驚き、慌てて居住まいを正して礼をしたのです。10代の棋士や挑戦者がそうなるなら分かります。なのに当時すでに七冠を達成していた棋士が、相手の投了を想定することもなく盤上に集中し続けている。将棋に対して純粋な気持ちがあふれ出ていたその姿は本当に輝いて見えました」

 鈴木九段はこれまで、羽生九段とは3勝6敗、藤井八冠とは0勝1敗という対戦成績を残している。「おそらく2人とは、今後もう1局指せるかどうかだとは思いますが、将棋界の2人のスターと指した経験は、棋士冥利に尽きます」。

 一挙手一投足がニュースになる令和のスター藤井八冠、将棋連盟会長職をこなしながらもまだまだ走り続ける羽生九段。稀代の天才2人が今後、どんな道を歩むか、目が離せない。

 ◆鈴木大介(すずき・だいすけ)1974年7月11日生まれ。日本将棋連盟九段。日本プロ麻雀連盟五段。Mリーグでは「BEAST Japanext」所属。獲得タイトルは「第15回早指し新鋭戦」(1996年度)「第49回NHK杯戦」(1999年度)。麻雀では「麻雀最強戦2019」。初の自伝「将棋と麻雀。頭脳戦の二刀流 49歳からの私の挑戦」(AET NEXT)には、羽生九段と藤井八冠との対局エピソードの他、麻雀プロ・佐々木寿人との対談、脳科学者・篠原菊紀教授の特別寄稿も収録されている。ユーチューブチャンネル「二刀流・鈴木大介【Dの流儀】」も配信中。

鈴木大介氏の自伝
鈴木大介氏の自伝