【土俵の深層(中)】今年の大相撲で、ファンから最も大きな声援を送られた力士が幕内朝乃山(29=高砂)だ。自身の不祥事による6場所出場停止処分の間に大関から三段目まで転落。今年1月の初場所で十両に返り咲き、5月の夏場所で再入幕を果たした。11月の九州場所は東前頭筆頭。かねて目標とする三役復帰まであと一歩のところで、アクシデントに見舞われた。

 秋巡業終盤に左ふくらはぎを痛め、初日から休場を余儀なくされた。それでも、朝乃山は途中出場を模索。6日目の夜、師匠の高砂親方(元関脇朝赤龍)に復帰を直訴して了承された。実はその数時間前、高砂親方は取材に対してこう話していた。「(状態は)少し良くなっている。四股を踏んだり、すり足ができるようになった。出場? まだですね。まだ相撲が取れていないので…」

 師匠の目にも「時期尚早」と映る強行出場だった。8日目の復帰初戦は大関貴景勝(常盤山)を破ったが、翌日から4連敗。最後は3連勝と白星を並べ、4勝4敗7休の成績で場所を終えた。ケガを悪化させるリスクを考慮すれば、全休して回復を優先する選択肢もあった。朝乃山は、出場にこだわった理由を次のように説明している。

「1枚でも番付が下がるのを止めたかった。1年間出場できなかったので、早く感覚を取り戻したい。ここで全休すると、またブランクになってしまう」。出場停止と番付降下を合わせれば、幕内上位での〝空白期間〟は実質2年に及ぶ。もうこれ以上、失われた時間を増やすわけにはいかない。元大関の頭の中に「全休」の選択肢は初めからなかった。

 その朝乃山は今年1年を振り返り「目標の三役には戻れなかった。また一から出直す。あきらめずに頑張りたい」。ファンも待ち望む完全復活を果たせるか。