【1・5時間社会科見学】90分程度で気軽に、それでいて貴重な体験ができる〝社会科見学〟をご紹介――。この秋、本紙は大手航空会社のANAが展開する2つの見学ツアーを取材しました。後編では格納庫が見学できる名物ツアーを取り上げます。飛行機を間近で見ることができるこちらのツアーも、学びと発見にあふれていました。

 今回ご紹介する「ANA Blue Hangar Tour」は前編で紹介したツアーとは異なり、航空機の格納庫を見学できるという内容です。開始が1969年という〝老舗社会科見学〟でもありますから、もしかすると読者の中にも「子供の頃に行った」という方がいらっしゃるかもしれませんね。

 参加者は格納庫見学の前に、まず整備工場(格納庫)と羽田空港の位置関係や、整備士の方々の仕事について映像でレクチャーを受けます。多くの方が安全な空の旅のために日々汗を流していることを知ると、改めて貴重な体験をさせてもらえるのだなと実感しました。ちなみに説明を受けるスペースには、実際の航空機に使用されているファーストクラスの座席等も展示されています。外から眺める前に、飛行機の内側も体感できるのはちょっとお得ですね。

 予備知識を頭に詰め込むと、いよいよ格納庫の見学。ANAのロゴが入ったヘルメットをかぶります。

見学中はヘルメットを装着
見学中はヘルメットを装着

 しばらく施設を歩くと格納庫とご対面できました。

 一歩踏み入れると、目の前には幅230メートル、奥行きが100メートルという広大な空間が広がっていました。東京ドームのグランド1・8個に相当するスペースに、取材当日は、ボーイング767、787といった主力航空機を含む計5機がずらりと整列。あまりの迫力に「おぉ…」と声が漏れました。

航空機が並ぶ光景は圧巻
航空機が並ぶ光景は圧巻

 見学の中で様々な角度から航空機を観察できるという点もうれしいポイントです。最初はデッキの上から見下ろす形で、その後は1階に下りてすぐ横から見上げる形で、飛行機を360度〝まるまる〟堪能できました。ツアー中は整備士の方々が黙々とメンテナンスをされている姿も目撃できます。メカ・ロボの類にはあまり造詣が深くない私でも、アニメの世界に迷い込んだような感覚がありましたね…。

 さながら〝飛行機の見本市〟といった様相を呈している格納庫では、翼の形状ひとつとっても発見があります。新型の航空機になるほど、主翼の先に角度がついたり、流線形になったりしていくのですが、こちらは翼端に生まれる空気の渦の発生を抑制し、抵抗を減らす目的があるとのこと。その結果、燃費が向上し、大型の航空機では1回で使用する燃料を5トン削減できるといいます。環境に向けた意識が全世界で高まりを見せる中、航空業界もさらなる進化が求められているようです。

 進化という意味では、機体に使われている素材も新しくなっているそう。炭素繊維を配合した素材を採用することで、軽量化を達成したことはもちろん、他にもうれしい効果があったそうで…。そちらはぜひガイドスタッフに質問してみてください。

 また、地味な部分ではありますが、「トイレ」にも大きな変化があるといいます。最近は飛行機のトイレと聞くと、新幹線と同じく「シュゴッ…!」と吸い込まれるものを想像されるのではないでしょうか? こちらは機内と機外の気圧差を利用して、時速200キロの速さで吸引する仕組みが採用されています(吸い込まれた「モノ」はタンクに収納され、上空で放出されることはありませんのであしからず…)。

 一方で旧来の航空機は流すための水をタンクで運び、水で流した後の「モノ」もタンクに貯めなければならず、燃費面でも収容量の面でも効率が悪かったのだとか。トイレひとつとっても洗練されてきたことが分かり、ツアー中は知的好奇心を〝くすぐられっぱなし〟でした。

 まだまだお伝えしたい内容はありますが、ネタバレが増えてしまいますので、最後は格納庫の端にたたずむボーイング737―500型機についてご紹介しましょう…!

 かつて『スーパードルフィン』という愛称で親しまれていた737―500は、実は現在は旅客用に使われていない引退済みの飛行機。そんな旧型の機体がなぜ格納庫の中にあるのか、疑問に思われるかもしれません。

今は現役を引退した「737-500」.
今は現役を引退した「737-500」.

 その答えはなんと「訓練に使うため」。整備士がメンテナンス技術を学び、向上させるために、いうなれば〝練習相手〟を務めているのだといいます。当日も入社後間もないことを表す、黄色のヘルメットをかぶった若手整備士の方々が数多く見られました。たとえ飛ばなくなった飛行機でもしっかり活用するという姿勢に、ANAさんの安全に対する強いこだわりを感じましたね…。

 ツアーの最後には、整備士の方々の仕事を説明する展示ホールや、ツアーやANAにちなんだ商品の販売コーナーが用意されています。普段は得られない知識に触れた証明に、オリジナルグッズを購入してみる、というのもいいですね。

展示ホールで整備について学ぼ
展示ホールで整備について学ぼ

 以上、2回にわたってANAの見学ツアーを紹介させていただきました。どちらも強い安全意識と、航空業界の魅力が詰まっているツアーなので、ぜひ一度チェックしてみてください!

【ANA Blue Hangar Tour】京浜急行バス・西新整備場バス停から徒歩4分、東京モノレール・新整備場駅から徒歩15分の位置にある、ANAの格納庫を見学できるツアー。現役の航空機がメンテナンスを受ける様子を、ごく間近で観察することができる。料金は無料だがインターネット予約が必要。

 詳細は公式サイト【https://www.anahd.co.jp/group/tour/ana-blue-hangar/】。