国民栄誉賞級だ! ボクシングのWBC・WBО世界スーパーバンタム級タイトル戦(25日、東京・有明アリーナ)は、前世界バンタム級4団体統一王者の井上尚弥(30=大橋)が、王者のスティーブン・フルトン(29=米国)を8ラウンド(R)1分14秒、TKOで撃破し、4階級制覇に成功した。事前に苦戦も予想されながら、それを覆す快勝劇。この一戦を「K―1」の生みの親でもある正道会館の石井和義館長(70)が徹底解剖した。〝間合い戦争〟を制するに至った、モンスターのすご過ぎる変化とは――。
バンタム級から1階級上げて臨んだ初戦は、当初苦戦も予想された。だが、ふたを開けてみれば井上がフルトンを圧倒。序盤は相手の攻撃を受けず一方的にリードジャブをヒットさせ、1~4Rを有利に運んだ。これに井上は「(重視したのは)距離感ですね。リーチではフルトン有利ですけど、その中でペースをつかむのは徹底しようねという話を(陣営と)していた」と明かしている。
ではなぜ、体格に劣る井上がまんまと距離を制することができたのか。石井館長は「いつもの構えと左足の指先の向きが違ったんです」と指摘する。オーソドックスの井上は通常、左足を前に構える。その際、普段は小指からかかとにかけた外側にあたる〝足刀〟を相手に向けているというが「今回は足刀ではなく指先をまっすぐ相手に向けていました。これによって普段よりまっすぐ踏み込めたんです」。
これで狂わされたのがフルトンだった。「事前に井上のジャブをもらわない距離を徹底研究して、アウトボクシングをするつもりだったはずです。ところが、井上の構えの変化により1発目からもらって、自分のパンチは当たらない。驚いたはずです」と分析した。
4Rまで予想外のジャブで追い込まれたフルトンは、下がればじり貧にならざるを得ないため中盤から無理に前へ出る。これも「フルトンが出てこなきゃいけない展開をつくりたかった」という井上の作戦通りだ。
石井館長は「出てくるフルトンに対して井上は、いったんあえて下がった。するとフルトンは〝中盤に井上は落ちることがある〟とのイメージもあるから、攻め込んできたんです。井上はそこで雑になるのを狙っていたんだと思います。こうして井上は〝間合い戦争〟を制し、相手を仕留めたんです」とズバリ指摘した。
さらに劇的KOを呼んだ裏にも、意外な勝負のあやがあった。8Rにフィニッシュの起点となったボディーへのジャブから顔面への右ストレートは、この試合に向けて井上が温めていたコンビネーションだ。だが、石井館長はこれを踏ん張ったフルトンの顔面に追撃で放たれ、最初のダウンにつながった左フックをポイントに挙げる。
「ダウン慣れしている選手は、あのストレートで倒れて8カウント休みます。でも、フルトンは今までダウンしたことがないから、それがわからず踏ん張ってくれた。だからフックでさらにダメージを与えられたんです」
このダウンから立ったフルトンにもはや余力はなく、井上は青コーナーでラッシュをしかけてTKO。相手が無敗の最強王者だったゆえの豪快な結末だった。
試合後、井上はリングサイドで観戦していたWBAスーパー・IBF同級王者マーロン・タパレス(フィリピン)を呼び込み、年内の4団体統一戦実現を呼びかけた。これを石井館長は「ちゃんと今後に向けても盛り上げたのもすごい。キックの選手たちも見習ってほしい!」と絶賛だ。
さらに「こうやって、日本中を楽しませてくれて、盛り上げてくれているわけですから。〝すぐに…〟となると本人は嫌がるかもしれないけれど、国民栄誉賞に十分、値すると思いますよ」と太鼓判。何とボクシング界初の快挙を猛プッシュした。
日本ボクシング界のヒーローが最強ロードを突き進む。















