その言動は、あの時のイチローに重なる――。第5回WBCに臨む日本代表の強化合宿が17日、宮崎市内でスタート。メジャー組で唯一参加するパドレスのダルビッシュ有投手(36)が初日から存在感を放った。近すぎず遠すぎずの絶妙な距離感で、侍メンバーと交流。3大会ぶりの世界一へ向けて始動した栗山ジャパンの面々に、スイッチを入れた。

 リラックスした空気を醸し出し、自ら後輩たちに近づいていった。山本(オリックス)、佐々木(ロッテ)には、これまで交わしてきた個々の会話の内容を思い出しながら声をかけた。「アドバイスと言うと、ちょっと上から(な感じがする)。お互い意見交換しながら」という流儀は、この日も変わらなかった。

 言わずもがな存在感は別格だ。メジャーの第一線で実績を残してきたからこそ、発言の一つひとつに説得力があり、それが仲間の背中を押す。この日も、世界を知る男の誇張なしの言葉がナインを勇気づけたはずだ。

「投手力で言ったらアメリカ、ドミニカに負けていない。本当にそう思っている。打撃もそう。投手力も打撃もどっちも勝負できると思っている」

 2012年に海を渡り、MLB通算95勝。このオフ、42歳シーズンまで現役を保障される長期6年契約を手にした。その実力者が「侍の総合力」に太鼓判を押した意義は大きい。

 あのレジェンドに重なる姿がある。日本をWBC初代王者に導いたソフトバンク・王貞治球団会長(82)は、偉業の舞台裏を回想する中で今大会の青写真をこう描いていた。

「(2006年は)イチロー君が選手たちに『アメリカの選手ってあまり大したことないよ』『本当にいい選手もいるけど、ほとんどの選手は君たちと変わらないよ』と言ってくれた。だから、日本の選手たちは自信を持ってグラウンドに立てた。今回も大谷君やダルビッシュ君から話を聞いて『われわれと差はないんだ』という気持ちでやってくれたら、日本はいい戦いができると思う」

 当時マリナーズで金字塔を打ち立て続けた安打製造機の言葉を受け、臆せず世界の猛者たちに立ち向かった侍たちがいた。今大会はアメリカもドミニカもプエルトリコも、MLBの一線級を招聘して史上最強と呼べる布陣で臨んでくる。どうしても各国の実力者たちを見上げがちだ。世界の王が悲願成就のキーマンに挙げた男は、それを知ってか知らずか、いの一番にチームを鼓舞した。

 選手個々に当事者意識を持たせるためキャプテン制を設けない栗山ジャパンだが、冠はつかなくとも言動から自然と求心力は高まる。ダルビッシュはさらにこうも言った。

「結果を気にしすぎると、ドンドン自分を追い詰めて、勝手にプレッシャーがかかってしまう。結果を考えるんじゃなくて、その日その日でしっかり準備をしていくことが大事。間違えている選手が結構どこの国にもいる。そこは間違えてはいけない」

 険しい戦いが待ち受けていることは百も承知。当然ミスも起こり得る中で、先を見据えたかじ取りも心得ている。

 合宿一発目の〝V訓示〟。自分自身のことも、チーム全体のことも、これから先のことも、ダルビッシュにはいろんなものが見えている。