【プロ野球 天の声・ウグイス嬢たちの素顔(1)】プロ野球では今年も選手たちの熱い戦いが繰り広げられているが、試合を支える裏方さんたちの思いも熱い。ウグイス嬢たちの素顔に迫る「プロ野球 天の声」第1回は、巨人でアナウンスを担当して、今年で39年目を迎えた山中美和子さん(59)。どんな思いを込めてマイクに日々、向かっているのか。大先輩から引き継いだ“ジャイアンツ愛”秘話に迫った。
山中さんにはアナウンスをする上で、心に留めている言葉がある。どのタイミングで、次打者の発声をすればいいか迷っていた時に先輩の務台鶴さん(故人)から言われた言葉だった。
「自分がどのタイミングで(アナウンスを)聞きたいか。一番聞きやすいタイミングで言えばいいの。だからジャイアンツファンになりなさい。野球ファンでいなさい」
その言葉を聞いた時に「『ファンならば分かる』という言葉がすごくよく分かったんです」と振り返る。読売新聞社の務台光雄元社長(故人)のめいっ子であり、「4番・サード、長嶋――」の名調子で知られた鶴さんからは仕事に向き合う姿勢を学んだ。鶴さんは病床にありながらラジオ放送を聴き、マイクのスイッチを持ち上げるわずかな音まで聴き分け、指摘するような方だった。
山中さんが入社2年目の3月、当時の多摩川グラウンドで教育リーグのアナウンスを担当した時には、鶴さんが病み上がりの体ながら「小雨降る中、グラウンドの土手で聞いていてくれた」(山中さん)姿が印象に残っている。その時に言われた「放送係は審判の代わりに言っているのだから、正しい正確なことをきちんと伝えなければならない」との教えを今も守っている。鶴さんはその年の5月に逝去。先輩の遺志を継いで、正確な放送を心掛けている。
野球好きの母親に影響され、いつしか野球が好きになっていた。神奈川県高野連から巨人に入社したのは、1977年9月のこと。今や大ベテランとなった山中さんだが、最初は失敗の連続だったという。ボールカウントを間違えて、まだ交代のタイミングではないのに次打者をアナウンスしてしまったときには「ただマイクのスイッチを切って、ずっと下を向いてました…」。投げていた投手からは「三振と勘違いしたんだろ?」と言われたが、ボールと思い、四球と勘違いしたとは言えなかった。
また駆け出し当初は、一軍と二軍戦をダブルヘッダーで掛け持ちすることも多く、二軍の試合で「1番・センター、柴田」と言ってしまったことも。これは当時の武宮寮長から「(柴田)勲が二軍の試合に出るのは何年ぶりかなぁ」とからかわれ、これまた下を向くしかなかったという。
マイクが入っていたことに気が付かず、味方の惜しいプレーに「あーあ、残念!」と漏らし、球場中の爆笑を誘ったこともある。
何ともチャーミングな人柄が伝わってくるが、「お嬢さん」と呼ばれた長嶋監督(現終身名誉監督)との思い出も味わい深い。当時の後楽園球場の構造はアナウンスブースがダッグアウトに併設されており、監督、選手は必ずブースの前のグラウンドか、後ろの通路を通るようになっていた。
放送機器がある関係で冷房がこの部屋だけに常設されていたこともあり、自然と“社交ルーム”のような場所になったという。
長嶋監督のお気に入りはアメとコブ茶。他におせんべいなどのお茶菓子も用意し、日々野球とは関係ない、たわいのない会話をすることで、戦いに向かう前の癒やしの空間を演出した。
当時は試合中の生の声もよく聞こえてきたという。ある時はセ・リーグの名物審判で「目玉のまっちゃん」と親しまれた松橋義喜さん(故人)とのこんなやりとりも。球審を務めていた松橋さんに、ベンチから長嶋監督が「今の、ボールか? 松橋さん!」と呼びかけていたのが次第に「松ちゃん!」「松ゴロー!」と変化。
最後は松橋さんが長嶋監督に向かって「何だ、チョーゴロー!」と応戦した。「昔は自由だったんですよね」と山中さん。
88年に東京ドームが開場。同時にアナウンスブースも上に移動したため、選手との接点は以前に比べて減った。それでも選手に向けるまなざしは変わらず、温かい。
「自分はジャイアンツファンですから『(ファンの方に向けて)一緒に応援しましょう!』という気持ちでいつもマイクに向かってます。務台(鶴)さんからも『ファンなら分かる』と言われましたが、ジャイアンツファンならいい放送ができると思っています」
アナウンス担当の球団職員としては今年で定年を迎える。同職をその後も続けるか、今はまだ検討中だが「今年が最後のシーズンになるかもしれない。だからこそ今まで通り、きっちり、淡々とやりたいですね」。いちファンとしての思いを大切に今日もマイクに向かう。
☆やまなか・みわこ=1956年11月4日生まれ、神奈川県出身。神奈川県立追浜高校卒業後、神奈川県高野連に就職。77年巨人に場内アナウンス係として入社。以来、ウグイス嬢として今年で39年目を迎えた。血液型=B、好きな食べ物は和食。趣味は宝塚、ミュージカル、歌舞伎など観劇全般。独身。運営部課長。
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