【ココロとカラダのニンゲン行動学】ここ数十年、精子の数が減少してきている。それは世界的な現象で、欧米に遅れてアフリカ諸国でも同様というから、原因は文明に関わるものだろう。いくつもの要因が考えられているが、その一つが、デスクワークが増えたことだ。

 座って作業をしていると、精巣の温度が上がる。そもそも人間の睾丸が体の外にあるのは精子を冷蔵保存するためだが、座っていて温度が上がると精子の数などに影響が表れるということなのだ。

 この件について研究したのが、米国のA・J・ガスキンス氏らだ。彼らはニューヨーク州ロチェスター大学の男子学生を被験者とし、過去3か月以内に週に何時間くらい動画を見たかと、汗をかくくらいの運動をしたかが分かっている189人について調べた。

 デスクワークではなく、動画観賞を問うたのは、まだ学生だからである。

 精液はマスターベーションによって採取してもらう。そうして精液の濃度を調べる。

 すると、精液の濃度と動画視聴、汗をかくほどの運動との間に相関があった。

 動画を最もよく見るグループ(週に15時間以上)は、ほとんど見ないグループ(週に4・5時間以内)と比べ、平均で44%、濃度が低かった。

 汗をかくほどの運動については、最もよく運動するグループ(週に15時間以上)はほとんど運動しないグループ(週に4・5時間以内)と比べ、平均で73%も濃度が高かったのだ。

 実は運動しないと活性酸素のレベルが上がり、それが精子の濃度に影響を与えるのである。運動すればそのような効果を打ち消すことができる。

 ここで動画をよく見るというのは、単にオタク系の男であり、モテないタイプ。だから精子の濃度も低いのではないか、という疑問が湧いてくるだろう。

 実際、顔の良い男は精子の質が良いという研究があり、女は顔の良さから男の精子の質、ひいては生殖能力を見抜いているのだ。

 そこでこの研究では、動画視聴が週に14時間以上とそれ以下のグループに分けて調べてみた。すると、動画をよく見るほうでのみ、精子の濃度と運動時間との相関が表れた。オタクだから精子の数が少ないわけではないのである。
  あまり座らず、汗をかくほどの運動をすることをお勧めしたい。

 ☆竹内久美子(たけうち・くみこ)京都大学理学部卒業後、同大学院で日高敏隆氏のもと、動物行動学を学びエッセイストに。「そんなバカな! 遺伝子と神について」(文春文庫、及び電子書籍)で講談社出版文化賞科学出版賞受賞。最新刊「フレディ・マーキュリーの恋 性と心のパラドックス」(文春新書)が発売中。