ロシアによるウクライナ侵攻は、ウクライナの国家主権に対する侵害であり、厳しく弾劾されるべきである。

 ただし、ロシアは日本の隣国だ。日常生活ならば、嫌な隣家があれば引っ越すことができる。しかし、国家は引っ越すことができない。2月24日、ロシアがウクライナに侵攻した瞬間に、国際社会のゲームのルールが変わり、新帝国主義の時代に入った。ロシアは日本にとって現実的脅威になった。

 岸田文雄首相はロシアと全面対決する腹を固めたようだ。決定的だったのは、日本政府が3月1日にロシアのプーチン大統領に対して制裁をかけ、日本における個人資産の凍結を決定したことだ。「どうせプーチンは日本に預金や土地を持っていないので、たいした意味はない」と考えるのは大間違いだ。日本にプーチン氏の資産が大量にあるならば、それを凍結する実質的な意味がある。資産がないのに凍結したことは、岸田首相が「お前とは付き合わない」というメッセージをプーチン氏に送ったことになる。ロシアは必ず報復してくる。北方領土問題は全く動かなくなった。日ロ首脳会談は、岸田氏、プーチン氏が国家元首に留まる間はしない方がいい。首脳会談になればプーチン氏が平和条約交渉(北方領土問題を解決するための交渉)の打ち切りを岸田氏に伝える可能性があるからだ。次に動き出す時期を待って、北方領土交渉を上手に凍結する必要がある。

 ロシアは日本にサケ・マスの漁獲割り当てを全く認めなくなる可能性がある。貝殻島コンブ協定、北方領土付近での安全操業協定も破棄、または凍結される可能性がある。

 筆者が最も懸念するのは、元島民の墓参や自由訪問などの北方領土でのビザなし交流をロシアが拒否する可能性だ。日本はロシアのラブロフ外相にも日本における資産凍結という制裁をかけた。

 これは岸田政権がラブロフ外相とまともに付き合う気がないという意思表示をしたことになる。林芳正外相が、人道的観点からビザなし交流の維持を主張しても「日本の諜報機関がクリル諸島(北方領土と千島列島に対するロシア側の呼称)で目的外活動(スパイ活動)を行っていることに鑑み、今後クリル諸島を訪問する日本人はパスポートを携行し、ロシアの査証(ビザ)を取ることを求める」と主張してくる可能性があると筆者は恐れている。 

 ☆さとう・まさる 1960年東京生まれ。85年、同志社大学大学院神学研究科を修了し、外務省に入省。ソ連崩壊を挟む88年から95年まで在モスクワ日本大使館勤務後、本省国際情報局分析第一課で主任分析官として活躍した。2005年に著した「国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて」で鮮烈なデビュー。20年、菊池寛賞を受賞した。最新著書は橋爪大三郎氏との共著「世界史の分岐点 激変する新世界秩序の読み方」(SB新書)がある。