【フィギュアスケート全日本選手権・回顧録4】(2013年12月20~23日、さいたまスーパーアリーナ)
前年の大会で初優勝を飾った羽生結弦は絶対王者への足場を固めていた。直前のグランプリ(GP)ファイナルで初優勝。翌年(14年)のソチ五輪金メダルという目標を達成すべく、最終選考会の今大会は完全Vを狙っていた。
ショートプログラム(SP)からエンジン全開だった。昨年から使用するゲーリー・ムーアの名曲「パリの散歩道」のブルースが流れると、氷上は一気に羽生ワールド。冒頭の4回転トーループを決め、後半のトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)、3回転ルッツ―3回転トーループのコンビネーションも着氷した。この時点で多くの人が優勝を確信したに違いない。昨年までの初々しさはなく、すでに王者の貫禄が備わっていた。唯一の100点超えとなる103・10点を叩き出し、堂々の首位発進を決めた。
翌日のフリーは最終グループ1番滑走。味わったことのない緊張に襲われ、冒頭の4回転サルコーで転倒した。「跳んだ瞬間にヤバいなと思った」。だが、動揺はなかった。「自分が演技をするだけ」。そう言い聞かせ、続く4回転トーループを意地で着氷し、後半の連続ジャンプも立て続けに成功させた。演技を終えると、氷に手を着いたまま息を整えた。技術点は100点を超え、フリー194・70点。トータル297・80点で2連覇を達成し、悲願のソチ五輪代表を内定させた。
SP、フリーともに1位の完全V。連覇とともに五輪代表も決めたが、試合後の羽生から出た言葉は「悔しいです」。この年、何度も口にしたフレーズだ。冒頭で転倒した自分が腹立たしかった。「足りないところがたくさんあった」。歓喜にわく観客とは対照的に、ひたすら反省の弁。その悔恨の表情に、いったいどれほど強くなるのか。末恐ろしさを感じさせた。
周知のように羽生はソチで金メダルを獲得し、4年後の平昌五輪で連覇を達成。押しも押されもせぬ世界一のスケーターとなった。フィギュア界の最高傑作。その男のターニングポイントは幾つもあったが、この年の全日本Vが最強伝説の幕開けになったことは間違いない。












