フィギュアスケートの全日本選手権(長野・ビッグハット)の上位者が競演するエキシビション「オールジャパン・メダリスト・オン・アイス2020」が28日、同会場で行われた。

 大トリを飾ったのは、やはりこの男。男子シングルで5年ぶり5度目の優勝を飾った五輪2連覇の羽生結弦(26=ANA)だ。そのプログラム「春よ、来い」は松任谷由実の名曲。美しいピアノの旋律に乗って、唯一無二のスケーティングで観客を感動の渦に巻き込んだ。

 この曲への思いはひとしおだった。2020年、新型コロナウイルス禍で先が見えない中、羽生は「ドン底まで落ち切った。自分がやっていくことがすごく無駄に思える時期がすごくあった」という。そんな中、浮上のキッカケを与えてくれたのが同曲だった。

 優勝後のインタビューでは「『春よ、来い』と『ロシアより愛を込めて』のプログラムを両方やった時に、やっぱりスケート好きだなって思ったんですよ。スケートじゃないと、自分は感情を出せないなって」と明かしていた。

 奮い立たせてくれた曲に乗って万感の思いで演じきった羽生。スタンディングオベーションの観客から拍手が鳴りやまなかった。

 キス・アンド・クライのインタビューでは同曲への思いをこう語った。

「いつもより明るく…たくさん滑らせていただいているプログラムですし、何よりもこの時期にピッタリというか、この世の中に一番伝えたいメッセージだったので、ホントに少しでも心が温かくなる演技がしたかった」

 さまざまなことが起こった2020年。リンクを後にする際、お決まりの「ありがとうございました!」の絶叫は封印した。王者は最後まで世の中への気遣いを忘れることはなかった。