五輪会場に驚きの新手法――。2020年東京五輪まで残り1年に迫り、競技施設の工事も急ピッチで進行中だ。そんな中で本番会場となる新スタジアムの「座席の色」に“異変”が起きている。3日に公開されたメイン会場の新国立競技場(東京・新宿)のスタンドは珍しいまだら色、ハンドボール会場の代々木第一体育館(東京・渋谷)の座席もなぜか濃い青に変更中だという。そこに隠された“裏の狙い”が本紙の取材で明らかになった。

 約9割が完成している新国立競技場の写真を見て「おや?」と感じた人も多いだろう。観客席をよく見ると、白、黄緑、グレー、深緑、濃茶が入り交じっている。この5色の「アースカラー」は森の木漏れ日をイメージしたもの。「自然と調和するスタンド」とうたわれているが、これは表向きだ。実は知れば知るほど深~い意図が隠されているという。

 ある競技団体の幹部はこう語る。「まだら模様にした理由はもう一つあって、空席を目立たないようにしているんです。これは海外のスタジアムでも使われている手法なんですよ」。確かに写真を見ると、無人の会場にもかかわらず、超満員に膨れ上がるスタンドのようにも見える。

 さらに、ハンドボール会場となる代々木第一体育館も同じ技法を導入している。現在、改修工事中で11月にリニューアルオープン。その座席は水色から濃い青色に変更されるという。同体育館の事業課に問い合わせると「以前の水色だと空席が目立つ。複数の競技団体にどんな色がいいか?をレクチャーしてもらい、会場が暗くなると空席が見えづらくなる濃い青に決めました」と目的を堂々と認めた。

 まさに“コロンブスの卵”とも言うべき発想の転換だ。目の錯覚を巧みに利用したユニークなアイデアについて、サッカーJリーグからバスケットボール界に移籍して組織改革を行うBリーグの大河正明チェアマン(61)を直撃すると「例えば、鹿島アントラーズのホームのカシマサッカースタジアム(茨城・鹿嶋市)は座席は赤色。スタンドをチームカラーと同じ色にすることはよくありますよ」と教えてくれた。また、大河氏はスポーツビジネスの側面からも「こういう見せ方は大事だと思いますよ」と、空席を見せない“演出”の重要性を説いた。

 東京五輪のチケット販売は、来月に第1次抽選の落選者限定のセカンドチャンスが実施される。激しい競争率からするとメイン会場のチケットが売れ残ることはまずあり得ないが、万が一、空席が生じたとしてもこれならごまかしが利く。かねて東京五輪組織委員会は「フルスタジアム化」を掲げているが、その大目標を座席の色も後押ししているのだ。