参院選の街頭演説中に凶弾に倒れた安倍晋三元首相について、映画界からは安倍氏の壮絶な半生を「作品として残したい」と願う声が噴出している。実は大の映画好きで知られる安倍氏は生前、監督になる夢を明かしたこともあったという。その夢はかなわなかったが、代わりにずっと映画について語り合ってきた昭恵夫人がメガホンを取る構想が浮上している。

 近年、首相経験者の葬儀は内閣・所属党の合同葬とすることがほぼ慣例化しているが、波瀾万丈の人生を送り、最期は街頭演説中の銃撃により不慮の死を遂げた安倍氏については、自民党内やネット上で「国葬」を求める声が噴出。岸田文雄首相は、今秋に国葬を実施する方針を発表した。

 そうしたなかで映画界では、安倍氏の壮絶な半生を映画化する機運が盛り上がりつつあるという。

 安倍氏は首相在任中も、年末年始は映画館に足を運び、多忙の中で時間を見つけては話題作をビデオで鑑賞するほど、大の映画好きとして知られていた。

「これまで東京国際映画祭など、映画のイベント出演をオファーすると、快く出演していただいた。『映画監督になりたかった』と笑顔でおっしゃったり、『初デートも映画館だった』という思い出を口にしたことも。古い作品から最新作まで本当によくご存じだった。映画に愛を注いでくれたからこそ『安倍さんの半生を描いた作品を撮れたら!』との思いを明かすスタッフは多い」(大手配給会社スタッフ)

 過去に安倍氏はラジオ番組などで映画監督への憧れを何度も告白している。2018年には自民党のインターネット番組で、第2の人生について「任侠映画のプロデューサー」と明かしたこともあった。

 安倍夫妻を知る映画スタッフによれば、夫婦で映画鑑賞した後に安倍氏は「安倍晋三監督ならこう撮る!」と昭恵夫人に熱弁したり、映画に関する悔しい思いを吐露することもあったという。

「アメリカでは、ほぼすべての大統領が映画化されていますが、日本の総理大臣が主人公として描かれた作品はほとんどない。しかも日本映画では『日本の首相は“ダメな総理大臣”“悪者の総理大臣”として登場することが多い』と嘆いていました」(前同)

 もっとも映画化されれば、政治的な判断の是非など、政策面をどう描くかも問われるだけに、安倍氏に反感を持つ勢力からは激しい批判が起きることも予想される。それこそ、「国葬」をめぐる論争と同じことが起きるかもしれない。

 ただ安倍氏と接してきた映画関係者らは、政治的な側面ではなく、あくまで「人間・安倍晋三」にフォーカスを当てる作品を描きたいと考え、それは実現可能だと言い切る。

「持病の潰瘍性大腸炎のため一度は退陣しながら、不死鳥のように首相の座に返り咲いた。それだけでなく『政界のおしどり夫婦』とも呼ばれた、知られざる夫婦関係をメインに描くこともできるのではないでしょうか。その場合に監督を務めるのは、安倍さんから撮影についてのこだわりをずっと聞いてきた昭恵さんしかいないでしょう」(前同)

 さらに、これまでメディアにさんざん報じられてきた昭恵夫人の“お騒がせぶり”を、自らがどう描くかも注目だ。
 襲撃事件の全容が判明していない段階で、映画化の話は早すぎるかもしれない。ただ首相の通算在職日数で歴代最長を誇る安倍氏は、これからずっと「こんなすごい政治家がいた」と語られ続ける存在なのは間違いない。安倍氏の飾らない人柄を描いた映画が完成する日は、それほど遠くなさそうだ。