7日にさいたまスーパーアリーナで行われたワールド・ボクシング・スーパーシリーズ(WBSS)バンタム級決勝戦は、WBA正規&IBF世界同級王者の井上尚弥(26=大橋)がWBA同級スーパー王者のノニト・ドネア(36=フィリピン)を3―0で破り、優勝した。

 試合後にリング上で行われた表彰式では優勝者に送られる「モハメド・アリ・トロフィー」が井上に渡された。

 ところがその日の夜、トロフィーは敗れたドネアの手元にあった。

 これはどういうことなのか? 

 実は、ドネアは夫人とともに来日した6歳と4歳の息子2人に「優勝して『アリ・トロフィー』を持って帰ってくる」と約束していたのだ。

 判定負けで約束を果たすことはできなかったが、せめて一瞬だけでも息子たちに実物を見せようと「涙を流して、恥をしのんで、イノウエにお願いして、一晩だけ貸してもらった」(ドネアのツイッターから)というのが、その理由だった。

 試合後、ドネアは病院に直行して検査を受けるなどして都内のホテルに戻ったのは未明になったため、息子たちがトロフィーと対面したのは8日の朝になってから。

“約束”は果たした。とはいえ、これは本来の形ではないということは伝えなければならない。

 ドネアは「これはお父さんのモノではない、と言ったら息子たちは泣きだした。でも、どれだけ頑張っても、思い通りにならないこともあるんだ、ということを教えなければならなかった」というやりとりがあったことを明かした。

 8日午前に投稿されたツイッターの動画ではドネアとともにトロフィーの前に立った息子たちが「サンキュー、ミスター・イノウエ。コングラチュレーション(ありがとう、井上さん。おめでとうございます)」と井上に対するお礼と祝福のコメントを寄せた。

 これも「トロフィーを見せてもらえたことに対する感謝の気持ちを伝えさせなければならないと思ったので」(ドネア)という理由だった。

 その後トロフィーは、午後から行われる一夜明け会見に間に合うように、井上の元に返却された。その際、関係者が「これから返しに行く」と告げると、ドネアは総勢十数人の「チーム・ドネア」を集合させ「イノウエとオオハシ会長にありがとうございました、と伝えてください」と全員で感謝の意を表したという。

 日本をこよなく愛し「武士道」にも造詣が深いドネアの振る舞いは試合前後を通して“サムライ”そのものだった。