札束の上限が、次の球界危機の導火線になろうとしている。米スポーツ専門局「ESPN」電子版は10日(日本時間11日)までに、ジェフ・パッサン記者の署名記事でMLB機構が導入を狙うサラリーキャップ制度を徹底解剖。その深層に迫るセンセーショナルな内容が、米球界内でも波紋を広げている。
現行の労使協定(CBA)は12月1日(同2日)に期限を迎える。ロックアウト再燃、あるいは1994年以来となるストライキ突入の不安がくすぶる中、最大級の火種が「年俸総額に上限を設けるか」だ。MLB側は30年以上に及ぶ労使交渉で初めて、選手会にサラリーキャップ制を正式提案した。柱は野球関連収益の50対50分配、上限2億4350万ドル(約391億円)、下限1億7120万ドル(約275億円)、テレビ放映権料の均等分配など。だが、MLB選手会のブルース・マイヤー暫定事務局長は、リーグ案を「主要スポーツの中で選手にとって最悪」と猛批判したという。
米球界で「敏腕記者」と称されるパッサン氏が照準を合わせたのは、北米4大プロスポーツの「野球以外」は今どこにいるのか、という比較だ。NFL(米プロフットボール)はハードキャップ制で、チームは原則として上限内に収める必要がある。一方で契約金を最大5年に案分できる抜け道があり、収益増に連動して上限も膨らむ。5年前に1チーム1億8250万ドル(約293億円)だった上限は、2026年には3億120万ドル(約483億円)まで跳ね上がった。
NHL(北米プロアイスホッケー)も2005―06年から厳格なキャップ制を敷く。導入には1シーズン丸ごとのロックアウトという激痛を伴ったが、現在は選手とオーナーが収益を50対50で分ける。2026―27年の上限は1億400万ドル(約167億円)、下限は7690万ドル(約123億円)。トップ選手の稼ぎは抑えられる一方、収益増で不満は和らいでいる。
NBA(米プロバスケットボール)は贅沢税、第1・第2エプロンで高額支出チームを縛る「緩やかなキャップ」を採用する。スターを外から買い集める時代は終わり、自軍で育て、引き留める球団に有利な制度設計だ。その副作用でFA市場の熱気や中堅選手の待遇を圧迫しているとの見方もある。
ではMLB案はどこに近いのか。記事では理念的にはNHL、仕組みの一部はNBA、上限の厳格さはNFLに近いと分析している。問題は、選手の給与の一部を留保するエスクロー制度や収益定義の控除、アマチュア契約金の扱いなど、「完全保証契約文化」を揺るがす要素が詰まっている点だ。
球団側は戦力均衡と収益拡大を掲げる。選手会は賃金抑制の看板を掛け替えただけだと反発する。パッサン記者の比較で浮かび上がるのは、サラリーキャップが「魔法の解決策」ではなく、リーグの形そのものを変える「劇薬」だという現実だ。次の労使交渉は、財布の上限を巡る全面戦争になりかねない。












