【取材の裏側 現場ノート】「この机、ずらしましょうか?」。疲労困ぱいのはずなのに、当たり前のように気遣いを見せてくれた。フィギュアスケート男子で五輪2連覇を達成したプロスケーター・羽生結弦(30)のすごさを改めて実感したワンシーンだった。

 記者が羽生に単独インタビューの場を設けてもらったのは、羽生が制作・指揮した単独公演「Yuzuru Hanyu ICE STORY 3rd 〝Echoes of Life〟 TOUR」の千秋楽翌日の2月10日だった。

 9日には千葉・ららアリーナ東京ベイで全国3か所7公演を締めくくったばかり。某所で行った単独インタビュー前の雑談では「もう疲れています、間違いなく疲れています」と苦笑いを浮かべるも、インタビューが始まるタイミングでカメラマンが写真を撮影しやすいように、机やソファなどの位置を調整。羽生も積極的に動いて最適解を探してくれた。

 フィギュアスケートを取材するようになったのは、2021年秋から。競技者時代の羽生を見る機会が多かったとはいえないが、演技はもちろん、囲み取材時には報道陣にも気配りをする姿が印象的だった。「礼に始まり礼に終わる」。この言葉が正しいかは別として、まさに〝武士道〟のような精神性を感じた。

 3月には「羽生結弦 notte stellata」(宮城・セキスイハイムスーパーアリーナ)で多くのトップスケーターとともに、東日本大震災で被災した方々への思いを滑りに込めた。プロ転向も自らの体にムチを打って前へ進む姿は変わらない。

 次なるアイスストーリーの構想はまだ明かしていない。それでも、きっと想像を超えたものが見られるだろう。「限界の先ぐらいに常に目標設定してしまっている」。単独インタビューで羽生の自負を聞いた瞬間、期待が確信に変わった。(運動部・中西崇太)