オカルト評論家・山口敏太郎氏が都市伝説の妖怪、学校の怪談、心霊スポットに現れる妖怪化した幽霊など、現代人が目撃した怪異を記し、妖怪絵師・増田よしはる氏の挿絵とともに現代の“百鬼夜行絵巻”を作り上げている。第234回は「えんべさん」だ。

 ある地方で、豊作の神様扱いされている存在である。その神の作り方というのは、専用の田んぼで作った稲で甘酒を作る。その甘酒を樽に入れて山の中に置いておく。この甘酒は、酸っぱいやら何やらであまりおいしいものとは言えないという。

 こうしていると、猿がやって来て、樽に入った甘酒に手を出して、酔っ払ってしまう。すかさず、覆面をかぶった村人が姿を現して、猿を竹籠で捕獲する。この時、人間としての顔を見られてはいけない。もし見られると、復讐をされてしまうからだ。

 籠に入れられた猿は、ドロドロの甘酒で飼育される。最初のうちは食べないのだが、そのうちおなかがすいて食べてしまう。そして、頃合いを見て、地中に埋めてしまい、1年ぐらいたったら掘り起こして、骨を洗って神様として祀る。この時は覆面をかぶってなくてもよい。

 こうして「えんべさん」は、豊作をもたらす神様となるのだ。つまり、苦しい状況から助けてやったお礼として、豊作になるように手伝えという意味である。

 えんべさん、あるいは「ええべさん」と呼ばれるのは、猿という漢字を「えん」と読ませているからだと推測される。

 1980年代まで効果があると思われていたが、次第に効果がないとされてしまった。この地方信仰の衰退は、太平洋戦争中に儀式を取り扱っている家の長男が戦死したことから、疑念が生まれたと言われている。