フィリピンのドゥテルテ前大統領(79)が11日、マニラ空港で「麻薬戦争」中に「人道に対する罪」を犯した疑いで逮捕された。今後、国際刑事裁判所(ICC)のあるオランダ・ハーグに移送される。

 在任中に殺すことをいとわない薬物犯罪対策「麻薬戦争」で、政府の発表だけで6000人、実際には約3万人以上の容疑者を超法規的に殺したとして、ICCが人道に対する罪の疑いで逮捕状を出していた。ICCの命令により、香港から帰国した際の逮捕だった。

 マルコス現政権は、ICCが国際刑事警察機構(ICPO)を通じて前大統領の逮捕を要請した場合、フィリピン司法当局は協力すると表明していた。

 ドゥテルテ氏の麻薬取り締まりにより、2016年7月から19年3月の間に3万人以上が殺害されたと推定されている。犠牲者のほとんどは貧しい都市部の若い男性で、路上や自宅で射殺されたという。

 ICCは、ドゥテルテ氏がまだダバオ市の市長だった11年11月1日から麻薬関連の殺人を行っていたとみている。

 同氏は以前、「もし望むなら今告白してもいい。ダバオの市長だった当時、私には7人の暗殺部隊があったが、彼らは警官ではなく、ギャングでもあった」「私は3人ほどを殺した。銃から何発の弾丸が彼らの体内に入ったか分からない。それは起こったことであり、私はそれについてウソをつくことはできない」と話していた。

 また、麻薬戦争の最中には、人々をヘリコプターから突き落とすと脅すなど、テロ行為を繰り返した。

 この逮捕劇は、〝不可能〟に近い案件を抱えているICCにとって悲願だった。

 司法関係者は「125の加盟国の支援を受けるICCは、戦争犯罪、人道に対する罪、大量虐殺などを行ったにもかかわらず、各国が自らの手で訴追する意思のない世界で最も残虐な人物の訴追を目指しています。ICCが戦争犯罪で指名手配したロシアのプーチン大統領、イスラエルのネタニヤフ首相、ウガンダの軍閥ジョセフ・コニー氏ら多くの容疑者は〝逃走中〟です。そんな中、ドゥテルテ氏の逮捕は悲願でしょう。国のトップを含む最悪の犯罪の容疑者は、世界のどこにいても裁きを受ける可能性があるということを示せますから」と語る。

 とはいえ、今回の逮捕は、フィリピン国内の勢力争いがあったからこそ実現したといわれる。二大派閥のマルコス家とドゥテルテ家の争いだ。

 東南アジア事情通は「麻薬戦争は国際的には悪評高いですが、フィリピン国内では支持され、ドゥテルテ氏の人気は高いままです。5月に中間選挙があり、ドゥテルテ氏はダバオ市長選挙に出る構えです。2028年の大統領選に立候補する予定の娘サラ副大統領の支持獲得に向けた動きです。現在、サラ氏が機密費の不正使用などの疑いで、議会下院から弾劾訴追されたので、ドゥテルテ氏が自主的に帰国し、逮捕され、同情票を集めようということです。逆にマルコス大統領はこれまでICCの要請を無視してきたのに、ドゥテルテ家にとどめを刺せると思い、逮捕を実行したんでしょう」と指摘する。

 マルコス氏は、かつての独裁者マルコス元大統領&イメルダ夫人の息子ながら、22年の大統領選に圧勝した。ドゥテルテ氏の逮捕は、娘支援のため、自ら望んだもの。〝犯罪者〟一族でもかまわない…フィリピンならではの事情がからんでいるようだ。