暦の上では春の訪れとなる立春。それでもまだまだ寒い日は続いている。せめて気持ちだけでも春の暖かさを感じられないものか。そこで今回は大手出版社・講談社宣伝担当の二宮進悟さんに「春を待つ5冊」を推薦してもらった。これを読めば、心にはひと足先に春の陽光が訪れそうだ――。

【「春、出逢い」宮田愛萌著】

「春、出逢い」宮田愛萌著
「春、出逢い」宮田愛萌著

 日向坂46の元メンバー、宮田愛萌による短編集。2022年にグループを脱退後、23年の「きらきらし」で作家デビュー。本作は存続危機の文芸部が「短歌甲子園」出場を目指す初の青春小説。

 舞台は東京都立櫓門高等学校文芸部。部長の吉徳紅乃は、先輩の木虎礼登と部員集めに奔走する。顧問の提案から短歌初心者が多い中、8月の短歌甲子園出場を目指すことになる。部員6人が主人公となる6編で構成され、それぞれの思いや悩みが、みずみずしい高校生の等身大の言葉で語られる熱い青春の物語だ。

「短歌甲子園を目指す高校生たちのドラマが熱く語られています。アイドル短歌でも活躍された宮田さんならではの傑作だと思います」(二宮さん)

【「旅する練習」乗代雄介著】

「旅する練習」乗代雄介著
「旅する練習」乗代雄介著

 第34回三島由紀夫賞、第37回坪田譲治文学賞をダブル受賞した「ロード・ノベル」の傑作。主人公は中学入学を前にしたサッカー少女の亜美と、小説家の叔父。新型コロナウイルス禍の春休みでやることがなかった2人はふとしたことから、徒歩で利根川沿いを千葉・我孫子から1週間かけ鹿島アントラーズの本拠地を目指す徒歩の旅に出る。

 亜美はサッカーボールを蹴りながらひたすら歩き、叔父は風景を描写し続ける。たった1週間の旅。しかし2人は、新たな発見や経験に遭遇。それぞれが人間的精神的に成長を遂げていく。そして感動的なエンディングへ――。読後は思わず涙してしまう傑作だ。

「人生の転換期にひたすら歩くことで2人がお互いに成長していく過程が描かれています。共感される方は多いと思います」(二宮さん)

【「青い春を数えて」武田綾乃著】

「青い春を数えて」武田綾乃著
「青い春を数えて」武田綾乃著

 吉川英治文学新人賞受賞作「愛されなくても別に」で話題を呼んだ著者の高校生5人を描いた5編の連作短編集。少女たちが大人になっていく姿を見事に描き切っている。読む側の胸が締めつけられる切実な感情が伝わってくる。

 放送部の知咲は、本番の舞台にトラウマがある。そして、部のエースの有紗の様子に異変を感じ、そこにドラマが生まれる(「白線と一歩」)。怒られることが怖い優等生の細谷と、めったに学校に来ない不良少女・清水。正反対の2人は逃避行に出るが、意外な結末が待っている(「漠然と五体」)。少女と大人のはざまで揺れ動く5人の女子高校生たち。みずみずしくも切実な十代の感情を表現した珠玉の作品だ。

「独特の感性で十代の少女たちの揺れ動く感情が見事に描かれています」(二宮さん)

【「7・5グラムの奇跡」砥上裕將著】

「7・5グラムの奇跡」砥上裕將著
「7・5グラムの奇跡」砥上裕將著

 2019年のデビュー作「線は、僕を描く」が横浜流星主演で映画化された著者の傑作短編集。不器用ながら真っすぐな性格を持つ視能訓練士の1年間を描いた物語である。

 新人視能訓練士の野宮恭一は北海道・北見眼科医院で働き始めたが失敗ばかりの日々が続く。患者は目に異常がないのに視力が低下した少女、カラーコンタクトをかたくなに外さない女性、緑内障を患った元ピアニストなどが登場する。さまざまな悩みを抱えた患者と心を通わせつつ、訓練士として人間として成長していく新人視能訓練士の物語。読後感はじんわりと心にしみてくる一冊だ。

「ちょうど春から春までの1年間を描いた作品で、舞台はかなり特殊なものですが、リアリティーに満ちた作品になっています」(二宮さん)

【「星を編む」凪良ゆう著】

「星を編む」凪良ゆう著
「星を編む」凪良ゆう著

 2023年度の本屋大賞を受賞した「汝、星のごとく」の続編で累計60万部を突破したベストセラー。前作では風光明媚な瀬戸内の島に育った高校生の暁海(あきみ)と、自由奔放な母の恋愛に振り回され島に転校してきた櫂(かい)が、ともに心に孤独と欠落を抱えたまま引かれ合いすれ違い、成長する姿が描かれた。

 本作は3部構成で、前作で語りきれなかった物語が展開される。「春に翔ぶ」では櫂と暁海を支える教師・北原の秘めた過去が語られ、彼が病院で話しかけられた教え子の菜々が抱えていた問題がテーマとなっている。

「星を編む」では、夢がかなって漫画原作者・作家となった櫂の姿が描かれ、櫂の才能を輝かせるために奮闘する担当の編集者2人を交えた物語がつづられる。

「波を渡る」では櫂と暁海が花火のようにきらめく時間を経て、愛情の果てに暁海の人生は続いていく姿が描かれる。2人の未来と新しい愛の形を提示した傑作だ。

「一番紹介したかった作品。言葉の数々が胸に突き刺さります。前作を読まなくても楽しめますが、読んだ後だとさらに感動が広がります」(二宮さん)