その昔、「息子より娘の誕生が喜ばれた」という相撲部屋。息子が力士になっても、関取に出世して年寄襲名資格を得られる保証はない。それより娘が強い力士と結婚すれば家族が部屋を継げるということだが、31日に琴ノ若が大関に昇進した佐渡ヶ嶽部屋はまさにその「超」がつく成功例となった。

 琴ノ若は母方の祖父が先代師匠の横綱琴桜で、父が元関脇琴ノ若の佐渡ヶ嶽親方。始まりはちょうど51年前の1973年初場所だった。当時32歳の大関琴桜が千秋楽に横綱北の富士(現NHK解説者)を破って優勝し、横綱に昇進。琴桜は後に専門誌で「長女誕生が〝狂い咲き〟ともいわれたエネルギーを与えてくれたのでしょう」と当時を振り返っている。

 その娘・真千子さんと96年に結婚した父・琴ノ若の間に生まれたのが今回の新大関。父は先代が2005年に定年を迎えたことに伴い、引退して部屋を継いだ。

 相撲界では力士が師匠の娘と結婚して部屋を継ぐのは珍しくない。古くは横綱佐田の山が現役時代に婿入りして出羽海部屋の後継者となり、横綱三重ノ海(後の武蔵川理事長)を育てている。ただ、三重ノ海は佐田の山が現役時代に入門しており、当初は師弟関係ではなかった。今回はまだ26歳の琴ノ若が横綱も狙える上、綱を張った祖父と関脇だった父の血を引くという意味で、画期的なファミリー成功ケースとなった。

 初場所で10勝を挙げた幕内王鵬も母方の祖父が大横綱大鵬で、父が元関脇(貴闘力)と琴ノ若と同様。23歳の王鵬の出世次第では、こちらも超成功の一族となる。

 一方でこうした縁組は後味が悪い結末も少なくない。過去、輪島と一昨年に死去した二代目横綱若乃花の両横綱、現立浪親方(元小結旭豊)は離婚。輪島の花籠部屋は閉鎖に追い込まれ、二代目若乃花は「土俵の鬼」の初代から二子山部屋を継ぐはずだったレールが壊れた。立浪親方は師匠との裁判で愛憎が公にさらされた。

 かつて「佐渡さんは不知火型で両手を広げてみんな取ってしまう」と土俵入りの型に例えて、他の親方から新弟子スカウト力を恐れられたのが先代佐渡ヶ嶽親方。一時は50人を超す大勢力を築き、現在も2位タイとなる24人の弟子がいる。脈々と続く「琴」力士の部屋から娘婿も現れ、その血が部屋2人目の横綱を狙える逸材を世に送り出した。