大関取りの舞台裏とは――。大相撲初場所千秋楽(28日、東京・両国国技館)、関脇琴ノ若(26=佐渡ヶ嶽)が大関昇進を確実にした。13勝2敗で優勝決定戦に進出。横綱照ノ富士(32=伊勢ヶ浜)に敗れて初賜杯は逃したものの、優勝同点の好成績で大関の地位をたぐり寄せた。兄弟子で元大関琴奨菊の秀ノ山親方(39=本紙評論家)は琴ノ若の飛躍につながった分岐点を指摘。さらに、弟弟子に〝喝〟を入れていたことも明かした。
大関取りに成功しても、琴ノ若に笑顔はなかった。本割で幕内翔猿(追手風)を下して迎えた決定戦は、照ノ富士に寄り切られて完敗。「悔しい。自分はまだまだ。しっかり来場所に向けてやるしかない」と唇をかんだ。それでも、審判部は琴ノ若の成績と相撲内容を高く評価。31日に開かれる春場所の番付編成会議と臨時理事会を経て、正式に大関へ昇進する。
昨年は、新小結だった初場所から6場所連続で三役を維持。この1年の成長について、秀ノ山親方は「琴ノ若にとってターニングポイントの一つになったのは、1年前に琴勝峰が優勝争いをしたこと。あの時は誰よりも悔しい思いをしたはず。うれしいんだけど、悔しいというもどかしさ。それが大きな原動力になった」と振り返る。
昨年の初場所千秋楽の結びで、同部屋の琴勝峰が大関貴景勝(常盤山)と相星決戦に臨んだ。新三役の自分ではなく、2歳年下の弟弟子が優勝が決まる大一番を経験。負けず嫌いの琴ノ若の闘志に火がつき、その後の成長につながったというわけだ。その琴ノ若に、秀ノ山親方はことあるごとに叱咤激励を続けてきたという。
「今場所前も連合稽古や稽古総見の時に『相手に自信を持たれたら終わり。大関になりたかったら、相手の自信を潰すぐらいの気持ちで稽古しなきゃいけないよ』と伝えていた。稽古場で手応えをつかんで、自信を持って場所に臨めたのが大きかったと思う」。年明けに行われた横綱審議委員会の稽古総見では、12番続けて相撲を取るなど土俵を独占。その後の一門の連合稽古でも自らを追い込み、本番での好成績につなげた。
さらに、秀ノ山親方は場所の終盤にも弟弟子に〝ムチ〟を入れていた。琴ノ若は13日目に照ノ富士に完敗。2敗となり単独首位から転落したタイミングでメールを送ったという。「照ノ富士に負けた時に『ここからが、先代(師匠)が何度も挑戦してきた壁だよ。もう勝ち負けじゃない。先代に向けて相撲を取れ!』とメールをした。次の日の霧島戦は自信を持って土俵に上がっていた」と明かした。
先代師匠で祖父の元横綱琴桜も大関や横綱の壁に何度もぶつかり、最後は乗り越えてきた。天国の祖父も孫が高い壁に挑戦する姿を守っているはず…。兄弟子からのハッパに応え、琴ノ若は14日目に星で並んでいた大関霧島(陸奥)を撃破。見事に結果を残してみせた。
もちろん、今回の大関昇進は通過点にすぎない。秀ノ山親方は「大関で終わりではない。優勝できなかった悔しさをバネにしながら、さらに上の地位を目指してほしい」とさらなる奮起を求めた。












