岐阜市の陸上自衛隊射撃場で、訓練中に18歳の自衛官候補生の男が教官の男性隊員3人を自動小銃で銃撃して死傷させた事件が波紋を呼んでいる。いまだ犯行の動機は解明されていないが、陸自OBからは慢性的なパワハラ体質が影響した可能性を指摘する声が噴出。年々、志願者が減り続けている自衛隊の状況もあって、安倍政権下でも取り沙汰された徴兵制導入議論につながりかねないとの指摘も上がっている。

 52歳と25歳の男性隊員を射殺した男は、教官だった52歳の隊員に殺意を持っていたと明かしており、これまでの状況から規則を破って弾を込め、所定の射撃位置につく前に銃撃したと見られている。

 訓練では所定の射撃位置についてから上官の指示のもと弾を込めて射撃するのが通常の手順のため、複数の陸自幹部から「安全管理に問題があったとしか考えられない」という声が漏れる一方で、実際の現場を知る陸自OBたちからは、陸自の慢性的なパワハラ体質が影響した可能性を指摘する意見も多い。

 そんななか今回の事件が、今後の日本の国防にも影響を与えかねないとする声が上がっている。政府は今年度、過去最大の6兆8000億円の防衛費を予算計上し、2027年にはGDP比で2%まで増やすと宣言したが、その予算を活用できる自衛官不足が深刻化している。

「自衛隊の人材不足は深刻です。自衛官の採用年齢を引き上げても志願者は集まらず、幹部候補を育成する防衛大の受験者にいたっては、この6年で40%弱も減少している。昨年は元陸自の女性隊員が所属部隊での性被害を訴えた事件があった。今回の事件でも多くのメディアで自衛隊内のハラスメント体質が報じられており、さらなる志願者減少が危惧されている」(霞が関関係者)

 実際、防衛省は近年の自衛官志願者の減少対策として、18年10月に採用年齢を26歳から32歳に引き上げたが、志願者減少に歯止めはかかっていない。また、幹部候補生を育成する防衛大学校も、かつては毎月学生手当(約12万円)や夏冬の期末手当(計約40万円)がもらえるとして受験生に人気だったが、前述のように近年の受験者数はこの6年間で約40%減少した。

「どの国でもキツくツラい軍への入隊志願者は多くない。そんななか近年では欧州でロシアの脅威を受けて、ウクライナ、リトアニア、ジョージア、スウェーデンなどが徴兵制を復活せざるを得なくなった。日本も中国による台湾有事が現実味を増しており、今回の事件でさらに自衛官の志願者が減少すれば、徴兵制の復活の議論にもつながりかねない」(前出)

 実際、これまでも徴兵制の復活は話題に上がっており、15年には当時の安倍晋三首相が自民党の動画チャンネルに出演し、国民の不安にこたえる形で「徴兵制は明確に憲法違反」と明言。岸田政権下でも昨年末にSNS上で導入の可能性が指摘されて話題となった。

 ある陸自OBは「人材不足による徴兵制導入の議論の前に、自衛隊、特に陸自内部の組織的問題を自浄するのが先」と指摘するが、とにかく閉鎖的で改革は遅々として進みそうもないという。

 今回の事件で逮捕された男の動機の詳細は判明していないが、もしかしたら“パンドラの箱”を開けるきっかけになってしまうかもしれない。