徐々に寒さも和らぎ、いよいよ春到来を待つ季節となった。卒業、入学、入社、異動、転勤など次のステップへ踏み出す人も多いはず。今回は新たな人生へ進むあなたの背中を押してくれるような「春に読みたい本5冊」を、都内でも有数の大手書店・芳林堂書店高田馬場店の山本善之さんに推薦してもらった。これを読めばきっと春到来と同時に新たな光が見えてくる――。 (協力・芳林堂書店高田馬場店)

「小学生がたった1日で19×19までかんぺきに暗算できる本」
「小学生がたった1日で19×19までかんぺきに暗算できる本」

「小学生がたった1日で19×19までかんぺきに暗算できる本」(小杉拓也・著/ダイヤモンド社)
 春は新しいことを始めたくなるシーズン。書店ではマナー本やフレッシャーズ向けの自己啓発本がよく売れますが、今一番ビジネスマンや年配の方に売れているのは、こちらの小学生向きの薄い暗算の本。内容はタイトル通りで説明を読み、ドリル形式でマスを埋めつつ考え方を理解すれば、誰でも読み切った後に2ケタ暗算ができるようになっています。
 読んだ後に暗算で5秒で答えがでるようになるとしたら? シンプルで普段の生活でも役立つシーンが想像できます。脳トレとしても人気で、これからの必須スキルとなりそうです。

「子どもに教えてあげられる 散歩の草花図鑑」
「子どもに教えてあげられる 散歩の草花図鑑」

「子どもに教えてあげられる 散歩の草花図鑑」(岩槻秀明・著/大和書房)
 春になると必ず書店店頭に並ぶ本があります。一番に先に浮かぶのがポケットサイズでお求めやすい価格のこの文庫図鑑です。

 散歩中に見かけた草花を、カラー写真を見比べて探す。家族で散歩しているとき、子供の「これなあに?」との問いに対してスマホのレンズを向ければ全てすぐに解決することはわかっていますが、対象をよく観察してページをめくって探し当てた植物の名前であったり、併記される過不足のない説明は他に代えられない豊かなコミュニケーションをもたらしてくれます。

 手に取れば外に出かけたくなり、そのたび家族の思い出が重なっていく春の定番品です。

「電線の恋人」(石山蓮華・著/平凡社)
 下を向いて草花を探した後は、上を向いて無機物に魅了されましょう。4月からTBS系ラジオ「こねくと」のパーソナリティーとなることで話題の石山蓮華さんは、俳優であり、無類の電線愛好家。

 この本では「私は電線の恋人だ」と断言し、フォルムを愛でるばかりではなく、インフラとしての必要性を考察し、素材や作り方などモノとしての一面も電線工場にまで行って理解を深める。まさに筋金入り。電線のことを好きか嫌いかで考えたことがある人は少ないであろう世の中。誰もが目の端で捉えていたものの魅力に気付いて愛着を深め、のめりこむことの幸せ。熱量高く書かれたこの本は電線を少し気になる存在に押し上げて、好きなものを追いかけることがすてきだと、大きく皆様の背中を押してくれることでしょう。

「名探偵のままでいて」
「名探偵のままでいて」

「名探偵のままでいて」(小西マサテル・著/宝島社)
「レビー小体型認知症」をご存じですか? 認知症全体の10%ほどを占め「第三の認知症」として注目を浴びており、アルツハイマー等のなじみのある認知症と異なる特徴は「幻視が繰り返される」という症状が出るそうです。

 著者の小西マサテルさんのお父さまは「レビー小体型認知症」で、自身で長く介護をなされてきました。そしてこの小説は、お父さまをモデルにした認知症の探偵が主人公の「安楽椅子」ミステリーです。

 好きにならずにいられない気持ちの良い登場人物たち。著者の愛が伝わってくる、名作ミステリーの数々にかけた事件と段構えの謎解きシーンは、読む手が止まらなくなること必至。作中の季節が進み、ラストの謎が春の希望に開けた前途と重なって、とてもさわやかな読後感を与えてくれます。

「人でなしの櫻」
「人でなしの櫻」

「人でなしの櫻」(遠田潤子・著/講談社)
 妻子を同時に失い、生きた人間を描けなくなった日本画家・清秀は、長年断絶していた父が誘拐し監禁していた少女・蓮子と出会います。

 長谷川等伯の息子・久蔵の描いた桜図に魅了され、自身も極限の一作を描きたいという芸術家の悩みの中、どうしようもなく蓮子に引かれていきます。8歳の心のまま19歳となった、父が壊した女を描きたいというゆがみ。まさに、現代版「地獄変」! そして、桜、桜、桜。うねりあう愛のなかにたぎる憎しみ、哀しみや憂いは、やがて全て昇華されます。

 切なすぎる愛の果てに何が待つのか。むせ返るほどの桜を全身で浴びる、当店文芸担当のイチオシ作品です。