広域強盗事件で「ルフィ」などと名乗り犯行を指示した疑いがあり、フィリピンを拠点とする特殊詐欺グループのリーダー格とされる渡辺優樹容疑者(38)が2017年ごろ、タイでも特殊詐欺に関わっていたとみられることが10日、分かった。警視庁は摘発を逃れるため拠点を転々としていたとみて調べる。一方、得体の知れなかった指示役ルフィの〝顔〟が分かり、「実行役」だった無数の小悪党が安心し、野に放たれたことにもなる。次のルフィ予備軍だ。

 特殊詐欺グループについては、渡辺容疑者が六つの「掛け子」グループの「ボス」と呼ばれていたことが判明している。今村磨人容疑者(38)はその一つのグループのリーダーとみなされている。藤田聖也容疑者(38)は掛け子および実行役となる闇バイトを集める担当で、小島智信容疑者(45)はカネの管理をしていたといわれる。

 一連の特殊詐欺事件ではルフィの可能性がある4人を含め、掛け子や実行役の約70人が逮捕されている。特殊詐欺だけでも約2300件で60億円以上の被害が出ているとされるが、これはあくまで氷山の一角。実際はその倍以上の被害が出ていると想定されている。元警視庁刑事で犯罪心理学者の北芝健氏はこう語る。

「捜査本部はどこが絵を描いた犯罪なのか大枠を把握しています。黒幕からの示唆があり、渡辺、今村が中核となり遠隔指示での特殊詐欺および強盗を行い、反社会勢力業界にとっては〝大当たり〟した一連の事件だったようです。捜査陣は何十年も続くぐらいに立件できる情報を握っているんですが、時間と人員は限られています。黒幕は示唆であり、捜査員の人員の制限がある中で、上まで突き上げられるかは分かりません。とにかくルフィの罪を完全に確定させることに力を注ぐことになるでしょう」

 警察庁のまとめによると、特殊詐欺事件では2003年から21年まで5743億円の被害額が出ているという。

 しかし、北芝氏は「本当の被害額は倍以上でしょう。ルフィの件で、特殊詐欺および強盗の実行役は60億円どころじゃなく、倍以上、少なくとも100億円以上奪っていて、捜査陣もルフィも総額を把握できないんです。というのも、スイス銀行やタックスヘイブンに預けたり、所得隠ししたり、被害届を出せない資産家から奪ったカネがたくさんあります。闇のカネであり、表には出せない被害金です。さらに、強盗した実行役でキモが太く、指示役ルフィに報告せず、奪ったカネを持ち逃げしたしたヤツらも多くいます。入管施設ビクタン収容所にいたルフィ4人が把握・回収しきれなかったカネはかなり多いらしいのです」と指摘する。

 22年にルフィに関連した犯罪で、山口県防府市の男性から1250万円を盗み取った男の判決が8日に言い渡され、懲役4年だった。公判で、この男は600万円だけを〝上納〟し、残りは自分の手元に残したという。男はそのカネを逃走資金として使い切ったと話しているが、どこかに隠して、4年の刑に服した後、650万円を懐に入れる可能性が高い。しかも、これは逮捕・判決まで至ったレアケースであり、持ち逃げした実行役はかなりいるとみられる。それが次のルフィになるだろう。

 元暴力団関係者は「渡辺は2012年に1000万円を窃盗した実行役をやり、結果は逮捕されたんですが、これで味を占めたようです。渡辺はキャバクラのキャッチやパブ経営をしていましたが、『こつこつ働くより、一獲千金。ある組織から特殊詐欺マニュアルを授かった』ともらしていたと、ススキノのワルから入っています。窃盗と詐欺なら逮捕されても数年でチャラなんですから」と明かす。

 今回は特殊詐欺での逮捕だが、警視庁にとっての本丸は狛江市の強盗殺人事件での立件だ。強盗殺人罪は死刑か無期懲役しかない。日本の留置場、拘置所、刑務所ではビクタン収容所のようにワイロで自由な生活を送れない。奪ったカネは無価値だ。

 北芝氏は「奪ったカネをルフィに回収されないまま、ルフィが逮捕された。大金を得て、ルフィから〝逃げ切った〟と安心した実行役は新たなルフィになるでしょう。渡辺を反面教師にして、新たな手口で犯罪を行うでしょう」と言う。

 ルフィのカモリストおよび掛け子と実行役リストは確実に闇社会に流れている。また、黒幕が新たなルフィを見いだし、新ルフィが暗躍することになりそうだ。