【取材の裏側 現場ノート】カタールW杯が熱狂のうちに終わったが、その舞台には立てなくとも強烈な存在感を見せた男がいる。バヒド・ハリルホジッチ元日本代表監督(70)だ。

 日本代表を率いて前回ロシアW杯への出場権を獲得したが「コミュニケーションの問題」を理由に、本大会開幕のわずか2か月前に電撃解任されたのは周知のとおり。だが今回のカタールW杯で、ハリルジャパン時代に抜てきされたFW浅野拓磨(28=ボーフム)が1次リーグ初戦の大一番ドイツ戦で劇的な決勝ゴールを奪って一躍ヒーローとなった。

 ハリルホジッチ氏は2015年8月の東アジアカップで20歳の浅野を代表初招集。高卒プロ3年目の浅野はスピードこそ定評はあったがスタメン出場はその時点でわずかに2試合で、リーグ戦4得点も決して目立った数字ではなかった。

 指揮官に登用の理由を聞くと「かなり速いし、常に背後を狙っている。真ん中でもサイドでもプレーできる」。そこまでは納得できたが、続いて出てきた言葉が「何よりも彼は得点を取れる」。浅野よりゴールを量産する選手はJリーグで他にもいたが、秘める〝得点感覚〟をズバリ指摘した。

 その言葉はのちに現実となり、浅野は大舞台で驚異的な勝負強さを発揮。17年8月のロシアW杯アジア最終予選オーストラリア戦でW杯切符をもたらす決勝弾、昨年10月のカタールW杯同予選オーストラリア戦でも負ければ森保一監督の解任危機で相手のオウンゴールを誘引するシュート、そしてW杯でドイツを撃破する一発を決めた。

 ハリルホジッチ氏は今大会直前まで指揮したモロッコ代表が4強進出で旋風を巻き起こしたことでも、その眼力を証明した。躍進は本大会を率いたワリド・レグラギ監督の手腕の賜物だが、自身が代表に抜てきしたMFアゼディン・ウナヒ(アンジェ)やMFセリム・アマラー(スタンダール・リエージュ)、MFザカリア・アブクラル(トゥールーズ)ら若手がW杯で大活躍した。

 日本を率いた時代から「名前だけでは呼ばない」と言い続けてきたが〝ハリルチルドレン〟の躍動は、名伯楽ぶりを改めて証明したといえるのではないか。

(サッカー担当・渡辺卓幸)