【山本美憂もう一息!(18)】2004年アテネ五輪の期間は、テレビでゲストコメンテーターの仕事をしました。五輪前にはレスリングだけではなく、いろんな競技の現場へ行き、大会期間中は東京のスタジオから番組に出演。複数のテレビ局で仕事をし、忙しい日々が続きました。早朝の番組もあったので睡眠時間は毎日2時間ほど。つい本番中にうとうとしてしまうこともありました。レスリングで女子種目が初めて採用された大会で、出場を目指していた私としては悔しい気持ちもありましたが、代表選手たちには「絶対金を取って」という思いを込めて応援していました。
私とともに五輪代表を逃し涙をのんだ妹の聖子は気持ちを入れ替え再び練習をスタート。一方、弟のノリ(徳郁さん)は新たな環境で才能を開花させました。「山本“KID”徳郁」の名で、総合格闘技(MMA)界でスターの階段を駆け上がりました。
05年大みそかに行われた「K―1 Dynamite!!」の「HERO’S ミドル級世界最強王者決定トーナメント」決勝戦で須藤元気さん(現参院議員)と対戦した試合は強く印象に残っています。「変幻自在のトリックスター」と呼ばれ人気を博した須藤さんを、1ラウンド終盤に右フックで倒すと、そのままグラウンドでパンチを連打しKO勝利。初代王者に輝きました。
また、06年に対戦した宮田和幸さんとの試合もよく覚えています。ノリは打撃では全然いけるけど、宮田さんはレスリングで五輪にも出ているし、強い。「これは大変なことになるな、疲れる試合になるだろうな」と思いました。祈るように応援していたら1ラウンド、ゴングと同時に飛びヒザ蹴りで宮田さんのアゴを打ち、開始わずか4秒で勝利しました。まさか、あんな作戦に出るとは思いもしなかったです。
ノリは自分を「格闘の神様の子」と表現し、皆さんからも「神の子」と呼ばれるようになりました。私は「ああ、そうなんだろうな。格闘技の神様がいるのなら、この子は、その子供なんだろうな」と納得しました。天性の格闘技センスがあり、レスリング時代からめちゃくちゃ強かった。練習姿勢も真面目一徹。私がふざけたり笑ったりしても、ノリは無表情で黙々とトレーニングに打ち込んでいました。レスリングでは女子のほうが話題になったことで“山本美憂の弟”という形で見られていましたが、私はずっとノリの試合を見てインスパイアされ、尊敬していました。
MMAの世界で唯一無二の存在となり、一世を風靡したノリ。しかし、心の中に残したままだった夢をかなえようと、周囲が驚く決断をするのです。
☆やまもと・みゆう 1974年8月4日生まれ。神奈川県出身。72年ミュンヘン五輪代表の父・郁榮氏の影響で小2からレスリングを始める。87年に中1で女子初の全日本選手権を制覇(44キロ級)し、47キロ級も含め5連覇。同選手権では計8度の優勝を誇る。91年、年齢制限のある世界選手権に特例で出場し史上最年少の17歳で優勝。94、95年も世界を制した。2016年にMMAに転向し「RIZIN」で女子格闘技をけん引。3人の子を持つ母。156センチ。












