女王奪還を〝コンプリート〟だ。競泳の東京五輪代表選考会を兼ねた日本選手権最終日(10日、東京アクアティクスセンター)、白血病からの完全復活を目指す池江璃花子(20=ルネサンス)が50メートルバタフライ決勝を25秒56で優勝。その1時間後に行われた女子50メートル自由形決勝も24秒84で制し「4冠」を達成した。かねて「2024年パリ五輪で金メダル」を目標にしながら、今大会で400メートルリレー、同メドレーリレーの五輪出場権を獲得。そんな水泳界のヒロインは、以前から大舞台への強い思いを口にしていた。

 表情に自信が満ち溢れていた。池江は大会前から優勝を目標にしていた50メートルバタフライで頂点に立つと、わずか1時間後に行われた50メートル自由形の決勝レースも堂々のトップでフィニッシュ。〝全種目V〟を果たし「日本で負けるのは今年で最後と決めていたんですけど、思った以上に成績も良かった。100メートル(バタフライと自由形)で2冠した後、やっぱり50メートル(の2種目)でも負けたくないという気持ちも湧いてきましたし、本当にすごくうれしい。今回の4冠という結果を自分に対して褒めてあげたい」と喜んだ。

 計11レースを〝完走〟した池江だったが、大会中は想像以上の疲労感に襲われていた。100メートル自由形を終えた8日に一時は「半フリ(50メートル自由形)は棄権したほうがいいかというのもギリギリまで悩んだ」という。しかし、翌9日には「『意外と体軽いかも。行けちゃうかも』という感じではあったので、そのまま最終日まで突っ走ることができてよかった」と明かした。

 一昨年2月に白血病が発覚し、池江にとって東京五輪は遠い存在になった。ただ、自国開催の五輪が新型コロナウイルス禍で1年延期となると、人ごとには思えなかったという。

「自分は出ないという気持ちでそれ(延期)を聞いていたんですけど、今まで一緒に泳いできた選手、他のアスリートたちの気持ちを考えるとすごく心が痛かった。五輪は4年に一度なので、モチベーションを保つのもすごい大変だと思いますし、そこはすごく、私もすごくつらかった」

 そんな池江は闘病生活を乗り越え、リハビリやトレーニングに励んで再びレースの舞台に帰ってきた。まだ自身が持つ日本記録には及ばないものの、出場するたびにタイムを伸ばして2月の東京都オープン50メートルバタフライでは復帰後初優勝。そして今大会で400メートルリレー、同メドレーリレーの五輪代表権を獲得した。

 かねて目標に掲げる「2024年パリ五輪で金メダル」にブレはないが、実戦復帰前には大舞台への強い思いを口にしたこともあった。「(五輪は)やっぱり特別。私は2016年(リオ五輪)に出ましたけど、その1回では絶対終わらせたくない。そこでまた活躍できるように、その目標を達成できるように頑張っていきたい」。自らの努力で2度目は〝最短〟の東京になったわけだ。

 初出場の5年前は「意外と普通の試合と変わんないなというイメージを持って試合に臨んだので、変な緊張もなくできていた」と話すが、今回は自国開催に加え、病からの復帰を果たす池江にスポットライトが当たることは間違いなく同じような精神状態で臨めるとは限らない。

 それでも、本人は「決まったからにはしっかり自分の使命を果たさないといけないと思っている。五輪本番まであと2、3か月あるので、そこまでさらに体力は付くと思いますし、リレーがメインになってくると思うんですけど、全力でチームに貢献したい」と気合十分。池江の〝第2の水泳人生〟は新たなステージに突入する。