【番記者の目】日馬富士が引退した。一連の暴行問題の経緯を取材してきた身としては、自ら幕を引く決断はやむを得なかったと思う。日馬富士を8年近く取材してきた記者としても、現役横綱が暴力を振るって角界を去ることは残念でならない。一方で素顔の日馬富士は本場所の土俵を離れれば実に親しみやすい存在でもあった。

 数年前、東京・江東区の伊勢ヶ浜部屋に修学旅行でやってきた中学生が社会見学に訪れた時のこと。中学生の男子が稽古を終えたばかりの日馬富士に質問を投げかけた。

 中学生「お相撲さんの仕事にやりがいはありますか?」

 日馬富士「お相撲さんの仕事は、見ている人に相撲で感動と勇気を与えることができる。すごくやりがいがありますよ」

 このやりとりを、さすが横綱…と思って聞いていた矢先のことだ。

 日馬富士「ところで、キミにカノジョはいるのかな。チューしたことはあるのかい?」

 中学生「……」

 思ったことを素直に口にしてしまうところも、ご愛嬌。一つの魅力でもあった。9月の秋場所で7場所ぶりに優勝した時の本紙記事では、日馬富士と記者との次のようなやりとりを掲載した。

 日馬富士「最近、誰もオレに注目してないよな。新聞の1面でも取り上げてくれなくなった。どうすれば取り上げてくれるの?」

 記者「そんなことを言われても」

 日馬富士「オレが奥さん以外の女の人と付き合ったりしたら(不倫!?)1面になるのかな?」

 記者「まさか、愛妻家の横綱が何をおっしゃいますか。これからバンバン優勝すれば、きっと1面になりますよ!」

 そして、日馬富士は本紙を含めてバンバン1面に掲載されることになった。優勝ではなく不祥事のために…。皮肉としか言いようがない。

(大相撲担当・小原太郎)