角界を揺るがす暴力問題はいったいどこに向かうのか――。日本相撲協会は26日、東京・両国国技館で理事会を開き、付け人の力士に暴力を振るった十両貴ノ富士(22=千賀ノ浦)に自主引退を促すことを決議。これに対して、貴ノ富士の代理人弁護士は協会に対して法的手段に出ることを示唆した。そんな中、今回の騒動は暴力問題に端を発した千賀ノ浦部屋内の“内部抗争”との見方が浮上。部屋は崩壊の危機に直面している。

 貴ノ富士は「貴公俊」のしこ名だった昨年3月場所中に付け人に暴力を振るい「出場停止1場所」の懲戒処分を受けた。今年8月には別の付け人の力士を殴打。今回が2度目であることから、この日の理事会では「引退やむなし」の意見で一致した。ただ、22歳と若く今後の人生が長いことを考慮。懲戒処分となる「引退勧告」ではなく、あくまでも自主的な引退を促すことを決議した。

 芝田山広報部長(56=元横綱大乃国)は「自主引退は理事会の温情」と説明。理事会に呼び出された貴ノ富士は処分内容を伝えられると「考えます」と答え、進退を保留した。その後、代理人弁護士は「今後については法的視点から本件処分の不当性を訴えてまいります」との見解を発表。法的手段に出ることを示唆した。貴ノ富士が自主引退を拒否した場合、相撲協会は最も重い「懲戒解雇」の処分を下す可能性が高い。

 貴ノ富士の経歴に傷がつく上に、退職金も支払われない。これまでに不祥事を起こした力士の多くが処分を受ける前に自ら引退を選択したのも、このためだ。なぜ、貴ノ富士は現役続行に固執するのか。もちろん、力士が相撲を取り続けたいと考えるのは不自然なことではない。その一方で、角界内では別の理由もささやかれている。

 事情に詳しい関係者は「貴ノ富士には“自分は陥れられた”という思いがあるようだ。以前から貴乃花部屋と千賀ノ浦部屋の力士との間では溝があった」と指摘する。貴ノ富士の前師匠の元貴乃花親方(47=元横綱、花田光司氏)は昨年9月場所後に相撲協会を退職。残された弟子は千賀ノ浦部屋へ移籍した。しかし、入門の経緯が異なる部屋の力士たちの間には、今も微妙な距離感があるという。今回の騒動では、直接暴力を振るわれた力士を含めて3人が部屋から脱走。他の1人を加えた4力士が貴ノ富士から差別的な言葉をかけられている。そのうち3人は「千賀ノ浦系」の力士。それらの力士が協会に対して、自分が不利になるような証言をしたのでは…。貴ノ富士が、そう疑ったとしても不思議ではない。

 もちろん、それが事実だったとしても、貴ノ富士の暴力が正当化できないことは言うまでもない。前日25日までに貴ノ富士の代理人弁護士は相撲協会に「要望書」、スポーツ庁に「上申書」を提出し、寛大な処分を求めている。この動きは現師匠の千賀ノ浦親方(58=元小結隆三杉)に無断で行われた(本紙既報)。師匠ですら信用できないと見られても仕方がない行動だ。

 この日の理事会では双子の実弟の幕内貴源治(22)も、同じ4人に対する不適切な言動で「けん責」の処分を受けた。果たして、兄弟の心中はいかばかりか。いずれにせよ、千賀ノ浦部屋は“空中分解”の危機に直面している。