フィギュアスケート五輪2連覇の羽生結弦(27=ANA)が全日本選手権(26日、さいたまスーパーアリーナ)で2年連続6度目の優勝を達成。3連覇が懸かる北京五輪出場も確定させたが、話題は前人未到のクワッドアクセル(4回転半ジャンプ)で持ち切りだ。歴史的瞬間を見ようと、フィギュア界の重鎮らが続々と来場。世界初成功はお預けとなったが、「成功は時間の問題」などと絶賛の声が相次いだ。羽生ファンも4回転半の成功を願って〝聖地巡礼〟で後押しをしている。


 静寂の中、会場の視線が一点に集まった。フリー「天と地と」の冒頭、羽生は人類初のクワッドアクセル成功を目指して踏み切った。着氷は惜しくも両足となり、ダウングレードと判定。出来映え点(GOE)も減点され、初成功とはならなかった。

 試合後の羽生は「本番にいくまで、かなり精神がグチャグチャになっていた。成功しきれていないジャンプを本番で使用するのは難しい。(練習では)何回も何回も体を打ち付けて、本当に死にに行くようなジャンプをずっとしていた」と心境を明かした。一時は「もうやめようかな」と諦めかけたが「皆さんが僕に懸けてくれる夢だから」と挑戦を決断。その思いは会場に詰めかけたファンはもちろん、フィギュア界のOBや重鎮たちにも伝わっていた。

 歴史的瞬間を見ようと、この日はフィギュア界のレジェンドも集結。全日本4連覇の元王者・小川勝氏、元国際審判員を務めた杉田秀男氏、国際スケート連盟(ISU)の名誉委員・平松純子氏らがかたずをのんで見守った。小川氏は「今回はプログラムに入れ、挑戦することに意味があった。それが第一歩」と話し、4回転半以外の演技についても「ジャンプを跳ばなくても『スケートってこういうもの』ってことを僕らが勉強させられた」と絶賛した。

 また、杉田氏は「成功するのは時間の問題だと思います。着氷は両足だけど、体は回り切っていたので。(今回は)成功どうかではなく、目の前で夢に挑戦する姿を見られて良かった」とうなずいた。いまや羽生の挑戦はフィギュア界全体の夢になっている。

 一方、ファンも熱い思いで王者を後押ししている。その一つが羽生にゆかりのある神社への巡礼だ。今季に入って羽生の4回転半挑戦が注目を集めると、日本航空界の父・二宮忠八が創建した「飛行神社」(京都・八幡市)を訪れる羽生ファンが急増。友田享宮司によると「(羽生の所属先の)ANAさんも応援できるし、羽生選手は4回転半を跳ぶのが一番の目的なので、ファンがお越しになるようになりました」という。

 実際に飛行神社にはプロゴルファーなど〝飛行〟に関する競技を行う選手も多く参拝。「プロゴルファーの方もウチのお守りを持っていたりします。ゴルフではボールの飛行の安全というところですが、羽生選手の場合はジャンプの安全ということで、たぶんみなさん飛行機の離陸とジャンプの無事を重ねていると思います」。形こそ違うが〝飛行〟の無事を願っている。

 4回転半の成功は〝お預け〟となったものの、今回の挑戦で人類初の偉業へさらに期待が高まったことは確か。北京五輪本番では世界中の注目を集めることになりそうだ。