国際体操連盟会長・渡辺守成氏が開催反対派にメッセージ「東京五輪が人類を救う」

2020年10月17日 11時01分

東京五輪批判に“回答”した渡辺氏

 高度経済成長期の日本に夢を与えた東京五輪は、1964年10月に秋晴れの下で開催された。あれから56年、「東京五輪」が皮肉にも批判の対象となっている。その“元凶”は新型コロナウイルス禍への不安、そして史上初の延期に伴う莫大な追加費用問題だ。金銭的にマイナスイメージを伴い世間から叩かれる中で、国際体操連盟会長で国際オリンピック委員会(IOC)委員を務める渡辺守成氏(61)を直撃。日本人唯一の国際競技連盟(IF)のトップとして五輪中止を求める人々へメッセージを送った。

 ――なぜ、五輪は国民から叩かれることがあるようになったのか

 渡辺会長(以下渡辺):スポーツの大会ではなく、エンターテインメントになってしまったから。つまり、五輪自体が「投資」の対象になり、どれだけ儲かるかしか考えなくなってしまった。でも、僕は東京五輪が今、いろいろな意味で叩かれ、国民の皆さんが五輪に対して多くの疑問を持ち始めていることは残念ではあるけど、いい機会でもあると思う。コロナによって五輪のあり方が議論され、国民が疑問に感じ、結果的に五輪があるべき姿になればいいと思う。
 ――具体的にどうすべきか

 渡辺:もっとお金をかけない方法があると思う。ブエノスアイレス(アルゼンチン)に行った時は、体操競技場は倉庫みたいなものだった。五輪でもアルミ製の大きな施設をボン、ボン、ボンって建て、終わったらグシャッて潰し、そこを有効活用させてもいい。大事なのは外観ではなく、その中で行われるアスリートたちの競技だから。

 ――他に改革案は

 渡辺:五輪の競技の運営について、もっとIFやNF(国内競技連盟)を活用したらいいと思う。そうするとコストも安くできるし、どこを削減すればいいかは自分たちが毎年大会をやっているから分かるでしょう。ところが、開催都市が決定後はスポーツ運営に未経験の行政が主体となり、結果的に非効率的な運営になってしまう。IFやNFとの協業にすれば、もっと効率良く運営できると思う。

 ――海外から見て日本のスポーツ文化をどう感じるか

 渡辺:本当の意味でスポーツが根づいていないと感じる。例えば欧州では絵画や音楽やスポーツが生活の一部になっている。映画「タイタニック」で船が沈む瞬間まで音楽を演奏したシーンがあったように、音楽は国民の人生に必要なもの。日本のスポーツもそうなってくれるとうれしい。2021年に東京五輪が開催され、26年にアジア大会(愛知県)が行われる。そして30年の札幌五輪(未定)を迎えるまでに、スポーツを根づかせる長期活動をやれば、日本は変わると思う。

 ――ぜひ、渡辺さんがIOC改革を

 渡辺:いや、僕は国際体操連盟の会長をしているほうが気楽なので(笑い)。でも、ホントにアスリートに寄り添う五輪であってほしい。僕の理念は「21世紀の産業革命はスポーツから」だと思っている。日本の社会の真ん中にスポーツがあって、五輪がある。それがショーケースとなり、社会の発展や企業の発展に波及していく。そういう仕組みをつくることで五輪に出場したアスリートは自分たちのステータス、社会でのプレゼンス(存在感)が上がり、結果的に五輪の価値が上がるんじゃないかな。五輪が単なるエンターテインメントから脱却し、すべてのスポーツを統括した存在として、どう社会に貢献するかだと思う。

 ――五輪を叩き、中止を求める人々へ言葉を

 渡辺:まず、2つの議論を明確にしたいと思う。1つは東京五輪に開催する価値はあるか? もう1つは東京五輪は開催できるか? 1つ目の「価値」は必ずあると思う。今、コロナによって暗く沈んだ世界を明るくし、コロナに崩された人類の絆を復活させることができる。東京五輪が人類にとって“特効薬”になることは間違いない。

 ――では、最も肝心な2つ目は

 渡辺:東京五輪は開催できるか――。それは現段階では正直な話、まだ判断できないと思う。現段階で私は「必ず開催できる」とは言えないし、また「必ず開催できない」とも言えない。可能性はまだまだあると思う。そして開催にこぎつけることができたなら、人類がコロナに打ち勝った五輪として日本が世界中の人たちに夢と希望を与えることになる。そうであれば、まだギブアップせず、ギリギリまで努力するのが我々の務め。私は開催直前まで諦めたくない。どうか、そこまで頑張らせてください。


☆わたなべ・もりなり 1959年2月21日生まれ。福岡・北九州市出身。東海大在学中に留学先のブルガリアで新体操と出合い、ジャスコ(現イオングループ)に入社。同競技普及に尽力する。日本体操協会専務理事を経て、2013年から国際体操連盟理事を務め、16年10月にアジア人初の会長に選ばれた。18年10月、IOC委員に就任。21年の東京五輪ボクシング競技を運営する特別作業部会の座長も務める。