増田明美・日本パラ陸連会長 ウグイス嬢作戦で選手と観客の懸け橋に

2020年05月30日 11時00分

車いす選手たちとも積極的に触れ合う増田氏(写真は本人提供)

【Rstart パラヒーローズ その壁を乗り越えろ(4)】1984年ロサンゼルス五輪女子マラソン日本代表で“細かすぎる解説者”として知られる増田明美氏(56)が、活動の幅を広げている。2018年6月から日本パラ陸上競技連盟の会長に就任。全国を縦横無尽に駆け巡りながら現場でお得意の“作戦”を使い、パラ陸上の魅力を発信してきた。新型コロナウイルス禍で1年延期となった東京五輪・パラリンピックの先行きは不透明となった中で本紙の取材に応じ、パラ陸上への熱い思いを激白した。

 増田氏がパラ陸上に深く携わるようになったのは約8年前。ロンドン五輪代表と同じ合宿地で、パラ陸上の代表選手も練習を行っていたことがきっかけだった。

 取材をする中で「人としてとっても魅力的。競技に入る前にひと山越えているので、明るさが突き抜けているんです」とパラ陸上の奥深さに取りつかれた。日々多くの小ネタ収集にいそしむ姿を見て、関係者が日本パラ陸連会長への就任を依頼。「迷いはなかった」と二つ返事で承諾し「選手たちの応援団長になりたい」との一心で普及活動をスタートさせた。

 まず目標に掲げたのは選手たちの実力向上だ。「強くないとダメ。競技力があって、人としても魅力的でパラにはこんな選手がいるなら競技場にも足を運んでみようってなるから」。ただ、パラ陸上でスポンサーなどから支援を受けられる選手はごくわずか。まだまだパラスポーツは予算不足で「日本陸連に比べると10分の1以下です」と国際大会に選手を派遣するのでさえ精一杯だという。それでも「合宿や地方大会にはできるだけ足を運ぶようにしています。自治体の担当者やボランティアの方々にお会いして、各地で応援してくれる方が増えるように、私ができることをやらせてもらっています」とサポートに注力している。

 その効果もあってか、昨年の世界選手権では女子走り幅跳び(T64)の中西麻耶(34=阪急交通社)が金メダルに輝くなど合計13個のメダルを獲得。競技力アップにより、少しずつ競技場に足を運ぶ人が増えてきた。

 増田氏はそこである“作戦”を決行した。「来場者たちがリピーターとしてまた見に来てもらえるように、楽しいと思わせないといけないから」とお家芸の“細かすぎる解説”を解禁。「場内アナウンス用のマイクを取ってやっちゃったの」と競技場内で生解説を実施するようになった。

 例えば、パラ陸上界のレジェンド・山本浩之(53)が出場する際には「山本さんは中年の星なんですけど、食事のときに自分の一番好きなものを最初に食べるんです。甘党の山本さん、デザートを食べた後にお肉なんですよ」と定番の小ネタを紹介。これで競技場が笑いに包まれた。

「これでいいんだ。観客と近くなるような実感を得た。場内アナウンスだからテレビと違って反応が返ってくるのが分かるし、声なんかも聞こえるから」。その後は増田氏の生解説を聞くために、観戦に訪れる観客も増え「私も大会を見に行くだけじゃなくて、ちょっと見て感じた中で出しゃばっている部分はあるけど、私が少しは役に立っていると思う」と笑みを浮かべた。

 増田氏の精力的な活動もあって波に乗り始めていたパラ陸上だが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で東京パラリンピックが1年延期に。それでも、すぐに「選手が不安でいる時間は短いほうがいいから」とすでに内定を出していた14選手をそのまま代表として推薦すると発表。さらに、延期によって今後参加資格を狙う選手のために「春に予定していた大会を秋に開催。多くの選手がパラ出場に挑戦してほしい」とアスリートファーストで活動を続ける。

「パラリンピックには社会を変える力があるし、未来につながる祭典だと思う。だからぜひ見て楽しんでほしい」。パラスポーツを身近なものにするために、日本パラ陸連の会長として増田氏はこれからも走り続ける。

 ☆ますだ・あけみ 1964年1月1日生まれ。千葉県出身。高校時代から長距離選手として注目を集め、84年ロサンゼルス五輪では女子マラソンの代表に選出。途中棄権に終わったが、92年に現役を退くまでに日本記録を12回、世界記録を2回更新した。現在はスポーツジャーナリストとして執筆活動などに励む。マラソン中継の解説にも携わっており、小ネタを交ぜた名解説が人気となっている。2018年の6月からは日本パラ陸上競技連盟の会長としても活躍中。150センチ。