児童養護施設長殺害犯 なぜ退所4年後に凶行

2019年02月27日 07時15分

 東京都渋谷区の児童養護施設「若草寮」施設長の大森信也さん(46)が殺害された事件で、警視庁代々木署は25日、殺人未遂の疑いで住所不詳で自称無職の田原仁容疑者(22)を現行犯逮捕した。容疑者は若草寮の元入所者で、同署によると、容疑を認め「施設に恨みがあった。施設の関係者であれば誰でもよかった」と供述している。なぜ、容疑者は退所から4年後に同施設を訪れ、凶行に及んだのか。専門家が謎に迫った。

 25日午後2時前、若草寮の女性職員から「男が暴れている。血が出ている男性がいる」と110番通報があった。署員が駆けつけると、1階にある施設長室の中で、刃物で胸や腹などを複数回刺され、床にぐったりと座り込んでいる大森さんを発見。発見当時、右胸には柄が外れた文化包丁の刃が刺さったままだった。心肺停止の状態で搬送され、病院で死亡が確認された。同署は現場にいた田原容疑者を現行犯逮捕した。

 同施設の防犯カメラの映像には、施錠されていない1階の入り口から施設に侵入する田原容疑者の姿が写っており、すぐ近くにある施設長室へ向かい入室直後に襲撃したとみられる。警察が現場に駆けつけた時には、職員2人が椅子を使って部屋から容疑者が出ないように封鎖していた。入所者の部屋は2、3階にあり子供たちは無事だった。

 同施設には、さまざまな事情で家族と一緒に暮らせない6~18歳の子供ら約30人が暮らしていた。捜査関係者によると、容疑者は2012年3月から15年3月まで、母親との関係性を巡って入所していたという。

 大森さんは長年児童福祉の専門誌の編集委員を務め、15年に児童養護施設を巣立った子供の葛藤をまとめた共著「子どもの未来をあきらめない 施設で育った子どもの自立支援」を刊行していた。かつて入所していた男性は「父親に近いように感じていた」と厚い信頼を寄せていた。

 また、近隣住民は「施設は何十年もここにあって、バザーを開いたりしていた。近くの小学校の1学年に2人ほど、この施設の児童が通学していて、児童は職員をお母さん、お父さんと呼んでいた。理事長さんは20年以上、他の責任者の方もずっと長いこと勤めている。本当にいい人ばかり」と話す。

 しかし、容疑者は「施設に恨み」と供述している。元警視庁刑事で犯罪ジャーナリストの北芝健氏は「世間は施設に入っていたというだけで、元入所者に対して冷たいところがある」と指摘する。

 同施設の評判は良好だが、原則として入所していられるのは18歳まで。その後は「ジャングルやツンドラのような厳しい社会」(北芝氏)に出なければならない。そして、4年。捜査関係者によると、田原容疑者は「最近はネットカフェで生活していた」と話している。社会への恨みが、施設への恨みに変わったのだろうか。

 一方、容疑者は「職員にストーカーされた」と供述しているという。

 北芝氏は「一般的に児童養護施設や、老人介護施設などでは虐待が起こりやすい。施設には神様のように優しい人とサディスティックな人がいて、理不尽な暴力を受ける入所者もいる。殺人に正当な理由はないが、『ストーカー』という供述通りなら、その職員を捜すはずで、『施設関係者なら誰でもよかった』という供述と矛盾する。この『誰でもよかった』というのは22歳にしては自立していない発言とも言える」と指摘。

 田原容疑者は大森さんの胸などを複数回、包丁の柄が外れるほど刺しており、強い殺意がうかがえる。「容疑者の現住所や職業はまだ明らかになっていない。施設長が著書を出版し高い評価を受けたなら、施設を出た容疑者としては『施設長の言っていることは現実とは違う』と誤った考えに陥り、強い殺意をもって今回の標的にした可能性も考えられる」と北芝氏は話している。