日本から約8000キロ離れた南太平洋のトンガで15日午後1時過ぎ(日本時間)に起きた海底火山噴火について、気象庁は当初、日本に津波の心配はないとしていたが、発生から約11時間後に津波警報・注意報を出し、真夜中から明け方にかけて、日本各地は混乱となった。気象庁は「今までこういった現象は確認していない」と未知のケースだったと釈明しているが、防災アナリストは「気象庁の責任逃れ」と指摘した。

 噴火はトンガの首都ヌクアロファの北約65キロにあるフンガトンガ・フンガハーパイと呼ばれる海底火山で、噴火規模は幅約5キロの噴煙が高さ約20キロまで上昇したとみられる。トンガ内の電話やネットなど通信インフラが遮断され、情報も少なく、「100年に1度」「1000年に1度」と専門家の見方も分かれた。

 混乱したのは気象庁の対応だ。15日午後1時10分ごろに噴火が発生した6時間後の午後7時、気象庁は「日本への津波被害の心配はない」としていた。ところがその後、潮位の上昇が観測され、16日0時過ぎに奄美群島、トカラ列島に津波警報、太平洋側の沿岸地域に津波注意報が出された。

 真夜中の警報に奄美群島に属する鹿児島・徳之島に住む30代女性は「飲みに行っていたが、携帯が一斉に『ファンファンファン…』と鳴りだして、もうパニックになりました。とりあえずお会計もせずに『逃げよう』となり、店主も『とにかく逃げよう』と。みんなで店を出て、とにかく高台の方へ向かいました」と緊迫の状況を明かした。

「そんなに街灯もないので基本的に暗いんです。そんな中で島内放送で『避難してください』というもんだから、戦争でも起きたんじゃないかと錯覚するぐらい。明け方まで放送があったんじゃないでしょうか」

 奄美市では、警報が出る前の15日午後11時55分に最大となる1・2メートル、岩手でも16日午前2時26分に1・1メートルの津波が観測された。高知では船舶10隻の転覆や沖への流出が確認され、三重では小型船1隻が転覆し、カキ養殖用のイカダが流出するなどし、全国で約30隻が転覆したとみられるが、幸い大きな人的被害はなかった。

 今回の津波は噴火で空気が振動する空振で潮位変化が起きたとみられ、気象庁は前例がないメカニズムだったとして、「潮位変化は、地震に伴い発生する通常の津波とは異なります。防災上の観点から津波警報の仕組みを使って防災対応を呼びかけている」と繰り返したが、情報伝達の面では今後の課題とした。

 気象庁の対応について、自民党の小野寺五典衆院議員は「場当たり的では。東日本大震災時にも同様で被害を大きくしました。今回の対応の検証求めます」とツイッターに投稿。専門家からも「津波の可能性は調査中と発表するべきだった」と批判が寄せられた。

 防災アナリストの金子富夫氏は「1960年のチリ地震津波、(1854年の安政南海地震での)稲むらの火などを忘れているのではないか。空振みたいなものから津波が発生したとされ、気象庁は津波といえるかどうか困惑したというが、国民からすれば危ないか危なくないかの話。困惑した時間差が危機喚起の遅延につながった。また、土日という行政機関の動きがない時間帯も一因になった」。

 そのうえで「気象庁の初期判断の誤りや遅れから総理大臣や各省庁の動きが鈍くなった。船が転覆したが、いち早く危険情報が出ていれば漁船係留や陸揚げなどの対処ができていたかもしれない」と、前例がないことを理由にする気象庁は責任逃れでしかないとした。

 また神奈川県では深夜から朝にかけ、津波注意報を緊急速報メールで最大20回も配信し、「うるさすぎる」「何ごとかと思った」とクレームが殺到。黒岩祐治知事はツイッターで「委託業者の設定作業ミスが原因であっても、もちろん県の責任です。業者に責任を押し付ける気はありません」とわびた。

 金子氏は「システムトラブルで迷惑だったかもしれないが、災害・危機情報に関しては伝わらない人もいる。文句ではなく他の人への安全喚起につながればいいと思う。今回の津波を機にいま一度、大規模災害の怖さ、避難、協力などへの心構えを改める必要がある」と訴えた。