タイ「洞窟遭難事故」映画が先月公開も元知事「事実と異なる場面が」と批判

2019年12月05日 16時00分

【アツいアジアから旬ネタ直送 亜細亜スポーツ】タイ北部のタムルアン洞窟で昨年夏、サッカー少年12人とコーチ1人が半月あまり閉じ込められた遭難事故が映画化され「ザ・ケイブ」と題し、11月21日からタイ全土で公開が始まった。

 遭難のきっかけは洞窟内が雨期のため増水し水位が大幅に上がったこと。脱出不能となった少年たちの救出には米英豪、中国など各国からダイバーが駆け付けた。救出チームのサポートや炊き出しなど、地元ボランティアも一丸に。同作は現場で尽力した人々の群像劇だ。

 ただ、早くも映画への批判が高まっている。洞窟があるチェンライ県のナロンサック・オサタナコーン元知事は「映画を作ってくれたことには感謝しているが、ところどころで事実と異なる場面がある」と苦言。

 同元知事はまた、洞窟に大量の水が流れ込む経路の探索や、遭難者がいる場所を特定し、洞窟を掘削していくところなど、困難を極めた重要な作業が劇中で描かれていないとも指摘し、物議を醸している。

「特に元知事を怒らせたのは救出作業の際、タイの役人が外国人ダイバーの参加に難色を示すシーン。元知事は事故当時、ほとんど寝る間もなく、多国籍部隊をまとめ上げ救出の陣頭指揮を執った。同じ地元のお役人たちが、映画で悪く描かれるのは我慢ならなかったのだろう」とは首都バンコク在住記者。

 監督兼プロデューサーのトム・ウォーラー氏は「これはあくまで映画であり、脚色はつきもの。本当の話とは違ってくるものだ」と開き直っている。監督はバンコク生まれで、タイと英国のハーフ。11年前にプロデュースした「ソイ・カウボーイ」はカンヌ国際映画祭に出品された実力派だ。

 こうしたネガティブな話題がネットで拡散したのも手伝い、同作は公開直後から大入り。タイ最大手の映画館「メジャー・シネプレックス」では、初週ランキング2位、興行収入は2330万バーツ(約8447万円)だった。

 タムルアン洞窟には今、映画を見た人々らが毎日3000人も“聖地巡礼”に訪れる。山深い森林公園にあるにもかかわらず、洞窟までトロリーバスを走らせ、土産物屋や屋台が軒を連ね、地元民は絶好のビジネスチャンスとみているようだ。遭難事故の救出でただ一人死亡した元タイ海軍特殊部隊ダイバーの銅像が建てられ、作業で使われた機材などが展示され、現場はさながら博物館かテーマパークの様相。

 この映画とは別に、米動画配信サービス大手「ネットフリックス」でも遭難事故の映像化が決まっている。(室橋裕和)

☆むろはし・ひろかず 1974年生まれ。週刊文春記者を経てタイ・バンコクに10年居住。現地日本語情報誌でデスクを務め、2014年に東京へ拠点を移したアジア専門ライター。最新著書は「日本の異国」(晶文社)。