【気になるあの人を追跡調査!野球探偵の備忘録】大リーグへの登竜門に日本人として唯一挑んでいる大学生がいる。高校野球の名門・東北(宮城)出身の西田陸浮内野手(21)。無名の短期大学からメジャースカウトの見本市といわれる伝統あるサマーリーグに招待され、米大学野球界のトップエリートが集結するリーグ戦で盗塁王のタイトルまで獲得した。一躍、大リーグ関係者から注目を集める存在となった日本人留学生の波瀾万丈の野球人生に迫った。
米大学野球サマーリーグの名門ケープ・コッド・ベースボールリーグ(CCBL)、ハイアニスの本拠地球場に着くと、西田はチームメートと交代で打席に立つライブBPを行っていた。西に傾きかけた日差しがフィールドに強く降り注ぐ、7月17日(日本時間18日)の試合開始約2時間30分前のことだ。
マウンドで投げていたのは、11日(同12日)にカージナルスから戦力外通告を受けたばかりのニック・ウィットグレン投手(31)。西田は安打性のあたりこそ出せなかったが、低めのボールを見極めたり、ファウルで粘ったりと、大リーグ通算287試合の登板を誇る右腕のストレートやカッターに食らいついた。米東海岸にあるこのリゾート地ではこの時期、大リーグのスカウトが有望な大学生を視察に訪れるが、このようなショーケースもまれにあるようだ。
CCBLは、テキサス大やバンダービルト大などの主力選手が招待され、10チームに戦力を振り分けて行う伝統あるサマーリーグだ。その中に、唯一の日本人として西田がいるのだが、それは奇跡と言っても過言ではない。なぜなら西田は高校までを日本で過ごし、2020年秋に進学したオレゴン州にある2年制の短期大学、決して有名ではないマウント・フット大から招待されたからだ。
リーグ戦は2日(同3日)に終了し、西田はチームで唯一、全43試合に出場。打率2割9分1厘、犠打5、そして28盗塁をマークして盗塁王となり、チームのプレーオフ進出に貢献し、7月23日(同24日)に行われたオールスターゲームに出場した。
プレーオフでも全5試合に1番・二塁で先発し、22打数9安打、打率4割9厘、3打点、4盗塁と活躍。今月8日(日本時間9日)に行われたボーン・ブレーブスとのプレーオフ第2戦で敗れ、敗退が決まったあとは多くの地元ファンからサインを求められ「君のような選手は見たことがない」とねぎらいの言葉を掛けられた。「2か月間、やり切った。すごく疲れました」。西田は充実した表情でサマーリーグを振り返った。
ハイアニスのニック・ジョンソンGMは「CCBLでどれくらい適応できるかを見極める必要があったが、彼は見事に限られた時間で私たちの懸念を払拭する適応をした。MLBのスカウトは彼のサイズ(168センチ、73キロ)を気にするだろうが、彼には自分にしかできないプレースタイルがあり、塁に出るという役割に徹する献身的な姿勢は素晴らしいし、私は来年のドラフト候補になる可能性があると思っている」と太鼓判を押した。
西田は北大阪ボーイズでプレーしていた中3の時にスカウトされ、大阪から宮城県の東北高校へ野球留学する。
最初はそのオファーを「やめときます」と辞退するが、チームのGMから「ダルビッシュが行っていた高校やで」と言われ、「え? ほな、行きます」と数秒で翻意。ところが練習初日にショッキングな出来事に見舞われる。監督から「髪を切れ。ピアスは外せ」と怒鳴られ、人生初の丸刈りになったのだ。
だが、足と元気を売りに1年秋に正三塁手の座を獲得すると、2年春からは二塁手として活躍。甲子園出場を果たすことはできなかったが、複数の大学からオファーが来るほどの選手に成長していた。だが、「将来は経営者になりたい」という夢をかなえるため、進路に悩んでいたところ「海外留学をして、英語を学んだらどうか」という父親からのアドバイスにひらめきを覚え、高3の秋に渡米。「アスリートブランドっていう会社が主催する(米国での野球の)ショーケースに参加して、8人で5校を回って、紅白戦をしたりして、それで(オファーのあった)マウントフット短大を選んだ」という。
その西田がCCBLに招待された理由は、過去2シーズン、同短大で突出した成績、結果を残してきたからに他ならない。首位打者、盗塁王、ゴールドグラブ賞などを獲得し、この秋には、奨学金のオファーがあったいくつかの大学の中から名門オレゴン大へ進学する。大リーグのスカウトからも連絡が来るようになった西田は「すごい楽しいですし、モチベーションが上がります」。
売りはなんといってもスピードだ。それを出塁、進塁に結びつける走塁の技術と、アグレッシブな二塁手としてのプレーで表現する。本拠地ハイアニスでは打席に入るたびに、多くの地元ファンがチームのホストファミリーが「リクウー」と声援を送っている。米国の投手はモーションが大きいと思いきや「短大では、どんなスタートを切っても行けるんですけど(有望選手が集結する)ここでは捕手の肩も全然違うし、投手はモーションをわざと遅くしつつ、コースを外しよる投手もいて、よく考えている投手が多い」と、相手バッテリーと想像以上の駆け引きがあるという。
23年のドラフトで指名されれば、日本の高校を卒業し、米国の大学に進学した日本人としては初となる。
☆にしだ・りくう 2001年5月6日、大阪府枚方市生まれ。21歳。168センチ、73キロ。右投げ左打ち。中3の時、軟式野球から硬式野球の北大阪ボーイズに入団し、宮城県の名門・東北高校へ進学。1年秋に正三塁手、2年春から正二塁手に。打順は主に1、2、3番。仙台育英の壁が厚く、3年間で甲子園出場は果たせなかった。












