日本古来のおとぎ話に「ワニ」が出てくるといえば、誰もが「因幡の白兎」を思い浮かべるだろう。海を渡ろうと考えた白兎がワニをあざむいて並べ、その背中の上を渡ろうとしたが、逆にそのワニたちに皮を剥ぎ取られてしまう。皮を剥ぎ取られた白兎が泣いているところに大国主が現れ、治療法を教えて助けてあげる話である。
良い行いをした大国主は白兎に予言された通り、旅の目的であった八上姫と結婚をすることができた。おとぎ話らしい教訓も織り込まれている。
また、国造りの神、農業の神、そして医療の神としても信仰され、この物語が大国主の特徴として大きな意味を持った。
この一部分だけ抜き出されてひとつのおとぎ話になっているが、これも多くの人が知るように「古事記」の中に書かれた、エピソードのひとつである。
「古事記」は日本最古の歴史書であり、神話として書かれている。この主人公である大国主もスサノオの子孫であり、その国造りの様子を描いた「大国主のくにつくり」として伝えられている。
ちなみに、ここに出てくる“あの”ワニは爬虫類のあのワニ、クロコダイルとかアリゲーターと言われる大きな口を持った“どう猛な生物”のことを指すのではなく、魚のサメを指すと記憶している人も多いのではないだろうか。サメでもシュモクザメだ、いやウミヘビだ、などと諸説ある。しかし、日本にも“あの”ワニが生息していた時期があるのだ。
その名は「マチカネワニ」。1964年に大阪府豊中市の大阪大学豊中キャンパスで出土したのだ。化石はすぐにはワニだと判明しなかったが、本格的な調査が進むと、ほぼ完璧なワニの骨格化石が発掘された。このマチカネワニの体長は7メートルほどだと推測されている。この化石が発掘された地層は更新世のもので、約38万〜42万年前ではないかとされている。
さらに2013年には島根県で巨大なワニの化石が発見され、これはマチカネワニの祖先ではないかと見られている。こちらも全長は7メートルほど。約2000万年前のもので、東アジア最古の巨大ワニの化石だ。
因幡の白兎に出てくるワニが本当に爬虫類のワニだったのかは分からない。ひょっとしたら特定の人間の集団を指すのかもしれない。「古事記」には神話が神話らしく書かれているところもあれば、実際の出来事が例えられているかとおぼしきところもある。
マチカネワニは未確認生物ではないし、因幡の白兎のワニが日本に生息していた可能性も高いとは思わない。しかし、もし古生物学と史学が結びついたりしたら、それは非常にロマンチックなことに感じる。












