女王が大舞台の主役へ――。32年ぶりに日本で開催される愛知・名古屋アジア大会が開幕した。「アジア版五輪」とも呼ばれる祭典で、金メダルが期待されるのが陸上女子100メートル障害代表の中島ひとみ(31=長谷川体育施設)だ。6月の日本選手権で悲願の初優勝を果たすと、8月には日本記録を2度更新して世間を驚かせた。栄光も挫折も味わった遅咲きのハードラーは、不変のモチベーションで30歳を過ぎても成長中。単独インタビューで〝頂点取り〟を宣言だ。

8月に日本記録を2度更新した中島ひとみ
8月に日本記録を2度更新した中島ひとみ

 8月9日の富士北麓ワールドトライアルで12秒62、同15日のナイトゲームズ・イン福井では12秒60をマーク。2週連続で日本記録をたたき出すも、冷静に現状を分析している。

 中島 1回目もすごい反響だったけど、2回目の時は周りの方が喜びよりもビックリしている感じでした(笑い)。一選手としては本当にうれしいし(努力が)形になってきているけど、次は「どうしていこうかな」という気持ちもあります。12秒6台をコンスタントに出せても「じゃあ(12秒)5台をコンスタントに出すにはどうしたらいいか」という考えが湧いてきました。

 日本代表に初選出されたのは、2025年世界選手権(東京)だった。学生時代から長きにわたって苦しい時期を過ごしたが、8年連続で自己ベストを更新中。〝過程〟を重要視してきたからこその結果だ。

 中島 ずっと同じ目標を持つことも大事だと思うけど、自分が高校生の時みたいに大きい目標だけを掲げすぎてしまうと、達成できなかった時に「全部がダメだったんじゃないか」と思うこともありました。でも、全部違うと思うのは良くないなと思って、ダメだったとしても〝過程〟を大事にしたいと思っています。競技人生を終えても、その〝過程〟は生きるだろうし、どれだけタイムが伸びたとしても、この姿勢は変わらないと思います。

モチベーションの保ち方についても語った中島ひとみ
モチベーションの保ち方についても語った中島ひとみ

 自身の道のりを肯定することで、メンタル面に余裕が生まれた。陸上に取り組む上で好不調の波は当然ある。ただ、不調時でも前向きな気持ちで対峙している。

 中島 私の一つの強みだと思うのは、常にワクワクできること。ポジティブなワクワクだけじゃなくて、ネガティブな部分にもワクワクを持っています。何かネガティブなことが起きた時に「自分ってこういう思考があるんだな」とか「こういう考え方ができるんだな」とか。物事に対する考え方だったり見方が常々変わるので、そういうのにもワクワクできています。

 アジア大会開幕1か月前には一部種目で日程変更が発表された。100メートル障害は26日に予定されていた決勝が27日にずれ込んだ。直前の日程変更に複雑な思いを抱きつつも、最高のパフォーマンスで恩返しを誓った。

 中島 決勝を見に行きたいと言ってくださった方が結構いたのに、私には何もできないのが申し訳ない。だからこそ、みなさんにより良い走りを見せたいです。アジア大会では本当に金メダルを取りたいと思っています。日本選手権では金メダルを見た時に、今までの数十年の自分を肯定できました。優勝のうれしさより、今までの自分を認めてあげられた思いが強かったので、アジア大会でも優勝して、金メダルという形として残したいです。

 25年世界選手権に続き、再び日本開催の大舞台で走るチャンスを得た。日本勢44年ぶりの100メートル障害金メダルへ、己の力を出し尽くす。

アジア大会でさらに記録を伸ばせるか
アジア大会でさらに記録を伸ばせるか

 ☆なかじま・ひとみ 1995年7月13日生まれ。兵庫県出身。中学3年時に100メートル障害で日本一に輝いたが、高校3年時に重圧から体調を崩す。その後は長きにわたって低迷期を過ごすも、2024年秋に自身初の12秒台をマーク。25年世界選手権で日本代表に初選出された。26年は日本選手権で初優勝を飾る。8月には日本記録を2度更新。ナイトゲームズ・イン福井で12秒60を記録した。163センチ。