【スティーヴィー・ワンダー/インナーヴィジョンズ(1973)】
ソウル界不世出の巨人スティーヴィー・ワンダーの大傑作。デビュー当時は単なる歌の上手な少年シンガーだったが、内に秘めたマルチな才能は周囲の想像を絶するものだった。年齢を重ねるごとに「太陽のあたる場所」(1966年)、「マイ・シェリー・アモール」(69年)などの名曲を発表して、成人となるやモータウンから完全プロデュース権を獲得し、常人を超えたペースで傑作を発表し続ける。
特筆すべきは「心の詩」「トーキング・ブック」(いずれも72年)、73年の本作、「ファースト・フィナーレ」(74年)、初の2枚組(+7インチ)の大作「キー・オブ・ライフ」(76年)を発表した5年間。もはや天才という言葉が陳腐に聞こえるほどの名作を次々とリリースした。
73年の本作はシンセサイザーを巧みに取り入れながら社会的な視線から黒人世界の現状を歌う。トランプ大統領によるイラン攻撃や移民弾圧が世界中の批判を受けている現在でも、十二分に説得力ある楽曲が並ぶ。
A面は「トゥ・ハイ」「愛の国」「汚れた街」「ゴールデン・レディ」と70年代の米国が抱えていた黒人問題がディープかつ緊張感のある演奏で鳴らされる。B面も後にレッチリがカバーしたハードな「ハイアー・グラウンド」「神の子供たち」「恋」「くよくよするなよ」「いつわり」と息つく間もなく名ナンバーが並ぶ。
単に黒人社会の暗部を歌うだけでなく、心に染みるバラードを挟んでいる展開も素晴らしい。この時期、スティーヴィーは明らかにストリートの黒人側に立つ代弁者であった。今なお万人の胸に響くマスターピースである。












