【多事蹴論84】激しすぎる熱血指導の代償とは――。2002年日韓W杯に向けて、日本代表を率いることになったフランス人のフィリップ・トルシエ監督は超スパルタでイレブンの強化をもくろんだ。練習中に「なんで、こんなことができないんだ!」と選手を激しく罵倒し、気に入らないプレーをした選手をチーム練習から外して罰走をさせるなど、やりたい放題。まるで「暴君」かのような振る舞いだった。
主力だったDF森岡隆三は指揮官の過激な指導に対して、グラウンドにスパイクを投げつけて不満をあらわにし、GK川口能活は他のイレブンが練習する中、怒りをにじませた表情でグラウンド周りを走らされた。MF藤田俊哉は合宿初日に「お前は次の代表に呼ばないかもしれない」と言われるなど、現在ならハラスメントと認定されかねない言動も多く、チーム内は常に緊張感に包まれていた。
そんなある日、メディア非公開の練習中にアクシデントは起きた。複数の関係者によると、DF陣に敵選手をマークする方法などを指導していたトルシエ監督はDF林健太郎を個別レッスン。いつものように身ぶり手ぶりを交えたオーバーアクションで指示を出していたが、林のプレーぶりに納得がいかなかったようで「体ごとオレに当たってこい!」と要求。そこで林が体をぶつけにいくが、指揮官は不満げで「本気でやっているのか」と激高したという。
林が全力で当たっていいものかと、ためらっていると「いいから来い!」と怒鳴り出したので仕方なく実戦と同じように激しくチャージした。するとトルシエ監督は2、3メートルくらい吹っ飛ばされるも、立ち上がって「それでいいんだ」とようやく“合格点”を与えたそうだ。指揮官は練習中も試合と同様の激しさを求めており、なかなか闘争心を表に出さないイレブンの“本気”を引き出すため、自らの胸を出したとみられる。
ただフルパワーでプロ選手のタックルを受けた指揮官の体は悲鳴を上げていた。日本サッカー協会の関係者によると、トルシエ監督は林とのマンツーマン特訓によって肋骨にヒビが入り、しばらくの間、痛そうな顔をしていたという。この件について、後日、林を直撃すると「トルシエ監督が負傷? そうみたいですね。その話は聞きましたけど、何度も『当たってこい』って言うから、そうしただけ。わざとケガさせたわけではないです」と語っていた。
トルシエ監督の指導法をめぐってはサッカー界でも賛否両論で、不満を口にする選手や関係者は多かった。そして迎えた02年日韓W杯本番では指導法などに不満を募らせたイレブンが「反トルシエ」で結束した結果、史上初の16強入りを勝ち取ったと言われるほどだった。 (敬称略)









