【ニュースシネマパラダイス】

 どうも! 有村昆です。 香港の民主活動家の周庭さんが留学先のカナダで「おそらく今後一生、香港に戻らない」とSNSに投稿し、事実上の亡命宣言をしました。

 2014年に中国政府が香港をより強いコントロール下に置くため香港行政長官選挙の改革方針を決定。これに反発した学生たちのデモが起こり、周庭さんは〝民主の女神〟と称され、中心的な役割を果たしました。

 20年に違法集会を扇動したとして実刑判決を受け収監。21年に出所しましたが、これまで情報発信をしていませんでした。周庭さんが無事だったことに安心しましたが、香港国家安全維持法による弾圧によって心的外傷後ストレス障害(PTSD)と診断されるなど、心身ともに不安定な時期が続いたようです。香港を守るためにデモを行ったのに、香港に帰れなくなった周庭さんの気持ちを考えると複雑です。

 今回は亡命をテーマにしたデンマーク映画「FLEE」(21年)を紹介します。スペルが「FREE」(自由)ではなく、「F〝L〟EE」で、逃げるという意味です。

 主人公はアフガニスタンで生まれ育った30代のアミンです。10代の頃にデンマークに亡命し研究者として成功を収め、ゲイであるアミンは恋人の男性と結婚をしようとしていました。そんなアミンは20年以上も自分の生い立ちを誰にも言うことができませんでした。亡命する際に、密入国のエージェントから自身の生い立ちを語ることを禁じられていたからです。苦悩していたアミンは、知り合いの映画監督に自身の生い立ちを語り始めるところから物語はスタートします。

 幼い頃に父が当局に連行され、アミンは家族とともにアフガニスタンからロシアに逃げます。しかし、ロシアで待っていたのは腐敗した警察官による金銭のたかりと暴力。すでに親族が亡命していたスウェーデンに密入国しようと闇のエージェントを頼ります。コンテナの中や船底に密入国者がすし詰めにされ、まさに命がけです。逃亡の途中で見つかり収容施設に送還され、家族とも離れ離れになったアミンですが、ようやくデンマークに難民として迎え入れられます。体は自由となったアミンですが、心の自由は奪われたままでした。

 映画はアニメドキュメンタリーというめずらしい手法をとっています。壮絶な半生と彼が経験した恐怖を実写で見るのはつらいですし、アニメだからこそ伝わるものがあります。何よりもアミンをはじめ関係者の安全を守るためです。紛争、LGBTQといった今、世界が抱える問題を問いかける1本です。

☆ありむら・こん 1976年7月2日生まれ。マレーシア出身。玉川大学文学部芸術学科卒業。ローカル局のラジオDJからキャリアをスタートさせ、その後映画コメンテーターとしてテレビ番組やイベントに引っ張りだこに。最新作からB級映画まで年間500本の作品を鑑賞。ユーチューブチャンネル「有村昆のアリコンch」で紹介している。