オカルト評論家・山口敏太郎氏が都市伝説の妖怪、学校の怪談、心霊スポットに現れる妖怪化した幽霊など、現代人が目撃した怪異を記し、妖怪絵師・増田よしはる氏の挿絵とともに現代の“百鬼夜行絵巻”を作り上げている。第146回は「ふだらく様」だ。
  
 毎年8月の7日から8日の朝にかけて、あるいはその1週間前後は、海に近づいてはならないという。俗に言う“禁忌の季節”というわけだ。

 どの地域でもお盆の時期は海での遊泳を禁じている。これはお盆の時期に泳ぐとクラゲに刺されてしまうという意味合いと、お盆に帰還する死者に足をすくわれるという伝承による。

「ふだらく様」はそんな時期に姿を現すとされている。8月7日の夜に沖合から太鼓の音が聞こえる。それがふだらく様の船がやってくる合図だというのだ。太鼓の音魂は神を招聘する道具にもなりうる。

 姿を現したあやしい船は板張りの屋根で、船の上に鳥居が立っている。ふだらく様は男の子が好きで、特に本家筋の跡取り息子が大好きだといい、狙われた男の子は水死してしまう。つまり、神の眷属にしてしまうのだ。

 船を神仏の化身とみなす行為は和歌山県に残る“ふだらく信仰”と似ている。これは、海の向こう側に浄土があるという考え方に基づき、棺おけに見立てた船に僧侶が自らを閉じ込め、あてもなく海に放出されるものである。これを“ふだらく渡航”と呼んだのだが、当然、挑戦した大部分の僧侶が死亡した。ある意味では見事に浄土に行けたわけだ。中には、沖縄に漂着し余生を満喫した例もあったらしい。このように、ふだらく渡航への恐怖心がこの妖怪を生み出した可能性はありうる。