オカルト評論家・山口敏太郎氏が都市伝説の妖怪、学校の怪談、心霊スポットに現れる妖怪化した幽霊など、現代人が目撃した怪異を記し、妖怪絵師・増田よしはる氏の挿絵とともに現代の“百鬼夜行絵巻”を作り上げている。第144回は「もくもくさん」だ。

 トンネルの掘削作業をやっていると、岩や砂でできているはずの壁面が突然、ウレタンでできているかのように軟らかくなる。ぐにょぐにょして、ドリルもツルハシも入らなくなってしまう。こうなると作業ができない。工事中に「もくもくさん」が現れると、作業は中止されてしまうのだ。

 かつてトンネル工事においては多くの人が犠牲になった。そしてその亡くなった霊は、無念の気持ちが大きくて妖怪化した。妖怪化したその霊を、かの水木しげるさんは「敷次郎」と記載している。

 敷次郎は一見、人間に見える。しかし、顔色は真っ黒で人間の言葉が通じない。愛媛県の別子銅山や岡山県の小泉銅鉛山に生息しているという。歩くと鉱山を掘るような音がしたり、水をくむ音がしたりする。

 出現する時は、爪をはがされるような悪寒がする。そして、人間に襲いかかり、強くかんでくる。かまれた傷は普通では治らない。仏前に用いる打敷(うちしき)か袈裟を焼いて灰にし、それを練ったものを傷口に塗らないと治らないという。

 突然、ウレタンのような衝撃を吸収する素材に変化するところなどは「ぬりかべ」の話を受け継いでいるものと推測できる。ぬりかべは硬い壁が道の真ん中に形成される現象だが、今回はトンネルという限定されたエリアの中に幻の壁が生じてしまうのだ。