9月30日、ロシアのプーチン大統領はウクライナの4州(ドネツク、ルハンスク〔ロシア語ではルガンスク〕、ザポロジエ、ヘルソン)を併合する条約に署名した。

 その際、プーチン氏は演説を行ったが、そこでウクライナとの停戦条件を明示した。

「私たちはキエフ政権に対し、2014年に始めた戦争、すべての敵対行為を直ちに停止し、交渉のテーブルに戻ることを求めます。私たちにはその準備ができています。このことはこれまでに何度も言われてきたことです。ただし、ドネツク、ルガンスク、ザポロジエ、ヘルソンの人々の選択は議論の対象になりません。それはすでに決定されており、ロシアがそれを裏切ることはありません。(拍手)。そして今日のキエフの当局は、この自由な民意の表現に敬意をもって接し、それ以外のことはしてはならないのです。これだけが平和への道となり得るのです」(ロシア語より筆者訳)。このような条件をウクライナのゼレンスキー大統領がのまないことをプーチン氏は十分認識している。

 ロシアは一体、何を狙っているのだろうか。プーチン氏の交渉術には特徴がある。ある時点でロシア側が出した条件に相手国が同意すれば、それで妥結する。相手がロシア側の条件をのまない場合は、ハードルを上げる。ウクライナとの関係で具体的に見てみよう。

 2015年の「第2ミンスク合意」では、ロシアの領土要求はクリミアのみだった。ドネツク州とルハンスク州の親ロシア派武装勢力が実効支配する地域については、特別の統治体制(自治)を要求するにとどまり、両州はウクライナに属することを認めていた。ゼレンスキー大統領は「第2ミンスク合意」の履行を頑なに拒否した。

 そして今年2月24日にロシアがウクライナに侵攻した。このときのロシアの領土要求は「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」は主権国家なので、そこからウクライナは撤退せよということだった。そして9月30日の演説では、「ドネツク人民共和国」「ルガンスク人民共和国」に加えザポロジエ州、ヘルソン州もロシアに併合することにした。

 この4州をロシア領と認めることを前提にした交渉をウクライナが拒否すると、ロシア軍はニコラエフ州、オデッサ州を制圧し、モルドバ共和国東部でロシア軍の平和維持部隊が駐留している沿ドニエステル地方とつなげ、ウクライナを内陸国家にするという戦略を立てていると思う。いずれにせよ、この戦争は長引く。

 ☆さとう・まさる 1960年東京生まれ。85年、同志社大学大学院神学研究科を修了し、外務省に入省。ソ連崩壊を挟む88年から95年まで在モスクワ日本大使館勤務後、本省国際情報局分析第一課で主任分析官として活躍した。2002年5月、背任容疑などで逮捕され、09年6月に執行猶予付き有罪判決が確定した。20年、「第68回 菊池寛賞」を受賞した。最新著書は「日本共産党の100年」(朝日新聞出版)がある。