【取材の裏側 現場ノート】大相撲の夏巡業は7日にさいたま市内で行われる。コロナ禍で中止が続いた巡業だったが、5日に東京・立川市で約2年8か月ぶりに再開。秋場所(9月11日初日、東京・両国国技館)に向けて他の部屋の力士と胸を合わせる貴重な機会となるのは間違いない。

 先の名古屋場所はコロナ関連による途中休場が続出。休場力士は全休の田子ノ浦部屋を含めて全体の約3割にあたる174人、計13部屋に上った。そんな異例の本場所で新入幕の錦富士(26=伊勢ヶ浜)は2桁10勝(5敗)を挙げて敢闘賞を獲得。ただ、千秋楽が不戦勝だったことに「複雑な気持ちもあるけど、運も実力のうちということで。しっかり準備してきてよかったなと」と率直な感想を口にした。

 青森・三本木農高から近大を中退して角界入り。協会プロフィルには身長183センチ、体重149キロとあり、伊勢ヶ浜部屋専属トレーナーの篠原毅郁氏は「関取としては決して恵まれた体格ではありません」と指摘する。では、フィジカル面をカバーするような〝強さ〟はどこにあるのか。

 錦富士は2019年秋場所に左ヒジを負傷し、力士生命の危機に追い込まれた。多少なりとも落ち込む態度を見せてもおかしくないが、篠原氏は当時の様子をはっきりと覚えているという。

「ケガした翌日に2人で話したんですが、彼はこう言ったんです。『篠原さん、自分はこんなケガで幼少から始めた相撲をあきらめるわけにはいきません。応援してくれてる方もいっぱいいるし、裏切れません。できるだけ早く手術を受けたいです』と。その言葉の強さは今でも忘れられません」

 術後は蜂窩織炎(ほうかしきえん)に悩まされ、腕がパンパンに腫れ上がって眠れない日々が続いたという。しかし「彼の目は死んでいませんでした」と篠原氏。「その後の努力はすごいものでした。それこそ『土俵に戻り、関取になるためには何でもする』という考えで、夢をあきらめない。自分一人のためじゃなく、お世話になってる人、自分を応援してくれるファンのため。そんな思いが錦富士を復活させたと思っています」

 この強靱な精神力こそ錦富士のストロングポイントであり、不断の努力に運も味方したのかもしれない。

(大相撲担当・小松 勝)