岸田文雄首相が掲げる「新しい資本主義」の骨格となる「骨太の方針」原案が5月31日に明らかになったが、これに「アベノミクス回帰」との声が上がっている。昨年の自民党総裁選で令和版「所得倍増計画」を掲げた岸田首相だが、ふたを開ければ「資産所得倍増計画」へとこっそりチェンジ。言葉の上では似ているが、株式評論家の山本伸氏は似ても似つかぬ「政策の大転換」と指摘する。

 首相就任以来、岸田首相は「新しい資本主義」を掲げ、「所得倍増計画」を声高にしてきたが、その骨格となる「骨太の方針」の原案では、「資産所得倍増計画」という言葉に微妙に変わっていた。

 もともと所得倍増計画とは、同じ広島県出身の池田勇人元首相が1960年代に掲げたもので、日本の高度成長を強力に推進した政策として知られる。新型コロナ禍とウクライナ戦争で冷え切った経済を立て直そうと、同郷の先輩にならって岸田首相も就任時に強く訴えていたが、ここにきて資産所得倍増計画へと言葉が変わった。いったい、どういうことなのか?

「言葉だけなら似ているが、内容は全然違う。一般に所得とは給与所得と考える人が多く、誰もが給与が倍増すると考えたはず。一方、資産所得とは所有する資産を元手に資産運用で得る所得のこと。つまり、給与が倍になるというのとはまるで別物。所得倍増という夢のような政策が不可能だと気づき、現実路線になったということだ」(山本氏)

 経済には「三面等価の原則」というものがあり、これに従えば所得を倍増させるにはGDP(国内総生産)も倍増させなければならないという非現実的なハードルが立ちはだかる。経済に疎いといわれる岸田首相だが、そもそも所得倍増計画そのものが夢物語だったというわけだ。

 一方で、野党からは成長戦略を重視した「アベノミクス回帰」といった声も出ているが、山本氏も「アベノミクスと同じ成長戦略、株高政策にかじを切った」として、こう話す。

「資産所得を増やすことは、資産運用することにほかならない。当初、岸田首相は金融所得課税の強化と自社株買い制限に前向きな姿勢を示し、“岸田ショック”と呼ばれる株安を引き起こした。これは資産運用の要の株式投資を促すのに明らかにマイナスだったが、今回はNISA(少額投資非課税制度)の拡充を打ち出すなど、積極的に株式投資を促す大転換を図った。国民の資産所得を増やすなら、必然的にアベノミクスに回帰する」

 しかし、成長戦略が肝のアベノミクスに回帰して株高政策を推進するにしても、すでに世界的な株価下降トレンドに入ったという見方もある。体よく日本国民が資産所得を“倍増”させることができるとは思えないが、山本氏は「現在の円安がさらに進めば、国際競争力を取り戻せる企業は意外と多い」と言う。国内企業の復活が株式市場を活性化させて、資産所得倍増を実現させるというわけだ。

 とはいえ、円安が進めば物価高で一時的に国民生活がひっ迫するのは確実だけに、一筋縄ではいかなそうだ。