ロシア軍の食料不足はヤツのせいか。ウクライナ軍の工作員がロシア軍の食料を奪っていると話題になっている。工作員のコードネームは「ドネツクのデブ猫」。その存在はベールに包まれているが、補給線を断つのは戦争の常道。軍事ジャーナリストは「食料は兵士にとって楽しみの一つ。奪われれば士気は低下する」と効果を指摘した。
数日で決着がつくとの観測もあったロシアによるウクライナ侵攻は長期化の様相を呈している。
複数の欧米メディアは、ロシア軍が深刻な食料不足に陥っていると報道。英国防省が「食料や燃料のような基本物資さえ前方部隊に補給できない状態にある」「多数の兵士を自軍の補給線に振り向けざるを得ず、攻勢に出る能力が大きく損なわれている」との見方を示しているという。
これまでにロシアは中国に対して、ドローンや食料、特に戦闘糧食の支援を求めていたと報道されている。つまり、前線の兵士たちの食料の確保すらままならなくなっているというのだ。
そんな中、SNSで先日、「ドネツクのデブ猫」の存在がクローズアップされた。これは海外のアカウント発の情報で、そのアカウントによると「ウクライナの潜入工作員である“チョンカー・オブ・ドネツク”が12以上の炊事用車両を奪い、ロシアの補給線を邪魔した」という。
チョンカーとは、ネットスラングで「太った猫」に当たる。ドネツクはウクライナ東部のこと。画像も添付されており、そこには確かに太った男が写っていた。この男がロシア軍の食料を荒らし回っているというのだろうか。存在が事実であるなら、食料不足に悩むロシア軍にとって脅威だ。
軍事ジャーナリストの鍛冶俊樹氏は「戦争では食料も弾薬もものすごい量が必要になる。だから補給線を狙うのは基本中の基本。かつてナポレオン戦争でナポレオンは大軍を率いてモスクワ遠征を試みましたが、モスクワはもぬけの殻で食料を確保できず、引き揚げるしかなかった」と、戦場における食料の大事さを解説した。
もっともドネツクのデブ猫は存在が不確かでもある。現地のニュース映像から関係のない画像が切り取られている疑いがあるのだ。
また、この戦争では「キエフの幽霊」も現れた。2月24日にロシア軍機を6機も撃ち落としたというウクライナ空軍のエースパイロットのことでネット上で話題になった。しかし、実際に存在するかは不透明なままだ。デブ猫も幽霊と同じく、情報戦の一環である可能性はある。
「デブ猫の存在が不確かでも、作戦として食料を奪うことはあり得る。兵士にとって食べることは楽しみの一つで、食料を奪われれば気がめいることは間違いない」(鍛冶氏)。食料奪取は士気を下げる作戦としては有効なわけで、本物の“デブ猫”が戦場を闊歩していてもなんら不思議はないのだ。
兵站(へいたん=軍事補給)が大事という前提を押さえた上で、鍛冶氏はロシア軍が食料不足との観測に疑義を呈する。「本当にロシア軍が兵站に行き詰まっていたとしたら、いまさら中国に頼んでも遅い。届くころには負けている。だから必要な分、少なくとも3月分は確保されていると考えるべきだ。今、不足しているのではなく、長期戦になることを見据えての支援要請で、まだ戦うぞというポーズを取っているのではないか」
むしろ気になるのは兵器類の支援を要請していることだという。「ロシアはドローン不足で中国から支援が欲しい。またミサイル類もそうでしょう。ウクライナ西部のリビウにロシア軍が巡航ミサイルを撃ったとのことですが、数が少ないのか大事に使っている印象があります」と鍛冶氏は指摘した。
幽霊にデブ猫。今後もロシア軍はさまざまなものに悩まされそうだ。