【どうなる?東京五輪パラリンピック(17)】新型コロナウイルスの猛威に負けず開催中の中央競馬は暗い世間にささやかな喜びを与えているが、五輪にも「馬」が主役の競技がある。人と馬がペアとなって競う「馬術」だ。パートナーが生き物という特殊性から、他競技にはない選手の苦労と魅力が同居している。本紙は1年延期となった東京五輪を目指す3選手をリモート取材。未曽有の状況下に置かれた現場の生の声をお伝えする。

 1900年パリ五輪から実施されている馬術は人馬のコンビネーションが見どころ。そんな競技の魅力と苦労を、障害馬術の杉谷泰造(43=杉谷乗馬ク)、総合馬術の大岩義明(43=nittоh)、馬場馬術の林伸伍(35=アイリッシュアラン乗馬学校)に聞いた。

 パートナーが動物とあって「言葉でなく、彼らと向き合うしかない」と語る杉谷は「積み重ねた信頼を糧につかんだ勝利は何ものにも代えがたい」と魅力を語る。林も「お互いが何を求めているかを伝えるのに途方もない時間がかかる。その苦労を乗り越えて意思疎通できたとき、普通では味わえないような達成感と絆を感じます!」と口にする。

 では、五輪1年延期が与える影響はどうか。13歳と14歳のセン馬(去勢された牡馬)をパートナーに持つ大岩は「(愛馬は)どちらかといえば経験値のあるベテラン。年単位で今年の夏を目標にしてきたので、来年にずれるのはプラスではない」と話し、馬と人間の寿命の違いもあって「1年」の重みを痛感。マジメな性格の13歳牝馬とコンビを組む杉谷は「(延期は)プラスです」と胸を張る。同馬は昨年末のアジア選手権Vで一段と成長。「ここ一番の集中力や勝負強さは経験を重ねることでしか培えません。この1年は強さに磨きをかける絶好のチャンス」と前向きだ。

 林は「プラスとマイナスの両面ある」と言い「準備が順調にいかない時期があったので遅れを取り戻せる。コンビネーションが深まり、さらにパフォーマンスが上がる」と利点を挙げつつ「1年後に健康を保てるか。生き物なのでケガや病気の問題は常につきまとう」と加齢によるリスクもあるという。

 一方、海外ではトラの新型コロナウイルス感染が確認され、話題となった。現時点で馬への感染リスクに関して専門家から選手たちへの説明はない。林は「現実的には人間が世話をせざるを得ず、そこには接触が必ず伴います。現時点では僕が感染しないこと、人に感染させないことを頭に置いて行動するしかない」と注意を払っている。

 あらゆる面で他競技のようにはいかない。大岩は「どんな状況下でも本番にはきっちり合わせますよ」と言うが、愛馬とともに歩む1年の道のりは長い。